田舎のダイナ
使用お題ひとつ
「スコーンはいかが? ジャムも美味しく煮れたのよ」
少女はくるんとエプロンを揺らす。
スロットにコインが投入されて少女は嬉しそうに微笑んだ。
「ちょっと待っていてね」
田舎の食堂の看板娘はくるくるとよく働くNPC。
いつだってダイナーで食事を準備して待っていてくれる。
誰にでも言ってるんだと思う。
君はプログラムだから。
それでも、乱数で決められてるのだろう言葉が変化が僕をたまにこのダイナーに足を運ばせる。
「あら、いらっしゃい。はじめての人ね!」
誰もが聞くセリフ。
「また、来てくれたのね。今度は同じこと何度も聞かないのよ?」
「待っていたのよ!」
少しずつ出迎えの言葉は変わっていく。
そして今では冒頭のセリフ。
がっつりよりスイーツを好んでいることまで把握され、そんな対応をされる。
きっと何度来ているか、その時の行動パターンとかが蓄積されているんだろう。それと乱数要素。
すっかり寂れて忘れられ気味になったダイナー。
会話ごっこを楽しんで、僕はダイナーを後にする。また来るよと約束を残して。
「待っていてね。内緒でお弁当詰めてあげるわ!」
明るく君は店の奥へ消えていく。
チラッと振り返る姿にどきりとする。
なにか言ってるようにも見えたけど音は拾えなかった。
「来てくれたのね。覚えててくれて嬉しいわ」
君がそっと微笑む。
繰り返されたバージョンアップ。しっかり自分のレベルアップ。
田舎の食堂は忘れられた。
イベントも周囲の敵も弱く、新しく初心者向けフィールドも増えた。
初心者救済のダイナーは忘れられた存在。
「遠くに行ってしまったかと思ったの」
みんなみたいに戻って来ないと思ってたとダイナーの少女は笑う。
僕はいつも通り「また来るよ」と約束する。
君は「それじゃあ」とお弁当を詰めに行く。
振り返って囁かれた言葉。前と違って僕は聞き取るスキルを持っている。
「なんでいつも独りにするの」
寂しそうな声に胸が締め付けられた。
それから僕は一日一回インするたびに田舎の食堂に通うんだ。
『 君はそっと振り返って、「なんでいつも独りにするの」と寂しそうな声で言った。』そんなお話を書いてください。 #ikanaide http://shindanmaker.com/550429




