刑場遊戯・番外
使用お題ひとつ
残酷描写あり。
染まる頬を見下ろす。
かすかに揺らぎ潤む陰りの樹皮を思わせる眼差し。
そこに責める色を見出すことが出来ない。
私は生きる力を、死ぬ自由を、そう、脈動する心臓を縛られている。
彼のために。
娘の手で。
「死ね。死ね。お前のせいだ」
首を絞める手に込める力が強くなる。
潤んだ眼差し、びくりびくりと時折り体が跳ねるけれど強い抵抗はない。
かはりとこぼされる泡まじりの唾液。
世界は暗転する。
キリキリと肉に刺さる痛み。
目を開ければ現実が広がる。
ここは石畳の刑場跡地。
私はそこに繋がれている罪人。
周囲には「あーあー」と鳴く子供らの声が聞こえる。
それらは私の胎から生まれた罪を背負う者。
生れ落ちた時から従属を定められた種族。
言葉など要らぬ。
尊厳など要らぬ。
ただ檻の内で飼われるイキモノ。
ああ。
空はあおい。
ここに屋根はない。
彼が、壊してしまったから。
昼下がりのまどろみの悪夢。
石畳を踏む靴の音。
「ノイギーア」
兄の声だ。
力を見ることのできない、哀れなお兄様。
「アーベントは復興した?」
街は刑場の屋根材が降り注ぎ凄まじい惨状だったと兄はこぼした。
多くの刑場を観にきていた観客、有力な財を持つ者が傷つき、命を落とした。
責め立てる声に耐えることの出来なかった兄は父の首を差し出したのだ。父のように「詮無き事」と黙殺など出来ない弱さ。
よく出来た、学んできた兄は今ではただの牢番だ。
死肉を生み出してきた刑場口減らしの門。
それが今では私という贄を荒らす場所。
笑いがこみ上げる。
ああ。
なぜ正気を手放せない。
わかってる。
それが私の娘が望んだこと。
そう、街が復興しようともその誉れは兄の上にはない。
兄はただの実父すら売り払った汚らわしい牢番。
故郷は滅んだのだ。
私の望んだように。
正気なぞすでに手放したのであろう兄の持つ剣が私の腹を抉る。
これが痛みの原因。キリキリと、じりじりと熱い。腹の内を金属が惑う。口の中に溜まる血液で溺れそうだ。
「なぜだ。なぜ」
兄の声は皹割れ震えている。
あたりに広がる血の匂いに子供らの鳴き声が聞こえなくなる。
「なぜ、死ねば、死ねば開放されるのに……。楽に、してやることすら出来ない」
繰り返される「死ね」と言う言葉。
狂気に微かに混じる兄としての妹への想い。
死ねない。正気を失えない、それを許されない私にとっては罰でしかない募る罪悪感。
いっそ、憎悪だけであればいいものを。
昼下がり午睡のまどろみ。
許されない罪を償う私の日向ぼっこ時間。
ああ。
血の穢れは魂に刻まれてきっと落ちる時はこないだろう。
『染まる頬』『昼下がりの日向ぼっこ』『心臓を縛られている』の小説orイラストを書いてみましょう。
http://shindanmaker.com/452487
別作品の十数年後ですが本編知らなくても問題ないと思われます。




