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扉の鍵
使用お題ひとつ
『使ってはいけないよ』
そう言い含められて掌に落とされた鍵。
夕焼けを落としたような色あいを揺らがす小瓶。
見上げたあの人の顔は見えない。
パラパラと涙が落ちる。
私はどうして言いつけを守れなかったのか。
恨みたくなる。
使ってはいけないのならば、どうして渡したのかと責めたくなる。
夕焼けの紅色の小瓶。
それは夜の庭に続く扉。
帰り着いた居場所に破滅をもたらす鍵。
「使ってはいけないと言っておいたのに」
あなたの声が降ってくる。
それでも、あなたに会いたかった。
夕焼けの紅色が鮮やかに黒い影をひきたてる。恋しい紅色。蕩ける暖色。
私は扉をくぐれずにただあなたをあかく染める。
『月と星の世界から逃げ帰りました。記念にともらったものは夕焼けを溶かした紅色の小瓶と開けてはいけない庭の鍵』です。
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