冷たい雨
使用お題6つ
それは雨が降る夜のことでした。
部屋の中で読書をしていたスフィアは訪ねてきたロレンツォに目を閉じてと囁かれます。
小さなランプの灯りがロレンツォの影を揺らし、スフィアの心臓を高鳴らせます。ランプの獣脂が燃える匂いがより強く感じられます。二人の間には静かな緊張感が漂っていました。
スフィアはこくりとつばを飲み込んで言葉の通りに目を閉じます。その顔を覗き込んでロレンツォは微笑みました。
好意を寄せる少女に信頼されていると言うことはとても嬉しいことなのでした。
たとえ、告げるべき言葉が別れだとしても喜びが減ることはなかったのです。
ここは終わった世界の残滓でした。
外は変異した生き物しか存在しません。
人を守るものはかろうじて残ったシェルターです。
千人はいた人々は、今はもう百人ちょっとしか残っていません。
ロレンツォはそっとスフィアの頬を撫でます。
撫でられて、そっと目を開けたスフィアの前には制服姿のロレンツォが立っていました。その表情は優しく嬉しげで、満たされて映ります。
「どれほど願っても、僕らは生きていけないのかもしれない。でもね、僕は戻ってくるからね」
その言葉にスフィアは笑顔で頷きます。
手を伸ばして、ロレンツォの頬に触れてその豊かとは言えない胸に抱き寄せます。
スフィアの手に触れるロレンツォの髪は冷たく冷えていました。
ほろりとロレンツォの眦から水滴が零れ落ちます。
ロレンツォの耳に届くスフィアの心音はかすかにロレンツォ自身の心音とずれた音でした。
それは嘘でした。
本当にしたい嘘でした。嘘をつくことでしかその心を支えることができなかったのです。
本当は、甘えずに立ち向かうべきと知っていました。
それでもロレンツォは強くはなかった。なれなかったのです。
そして、その弱さをスフィアは受け止めます。
記憶を失ったスフィアがこのシェルターに拾われ、役立たずと疎まれながらも排除されないのは招き入れてくれた大切な人が命をとして居場所をくれたからでした。
スフィアを守るために異形に生きたまま食われる大切な人の姿を見て、スフィアは声を失ったのです。
失ったかわりにスフィアはここでの居場所を得たのです。
冷たい雨に濡れることのない暖かな場所です。
それ以上何かを欲するものなどないはずでした。
それでも異形に向かい、命を棄てに行くロレンツォを見ているとスフィアの心臓は締め付けられるように痛むのです。
記憶さえ、取り戻せれば何かが変わるような予感がスフィアにはあるのです。
それでも声を持たないスフィアに告げるすべはありません。
たとえ、何を犠牲にしても、それでも、きっと欲しかったのです。
スフィアはロレンツォの戻ってくると言う嘘を信じて待つのです。
「死なないよ」
そう言った、大切な人を待つのと同じように待つのです。
いつか記憶の扉を開く鍵が揃うその日まで待ち続けるのです。
冷たい雨の降る光のない世界でただ、終わる日を待つのです。
ジゼット・ロンドと呼ばれるシステムがありました。
人が生きるための手助けをする優れたシステムでした。
JRはあるとき人を排除しなくては人が生きていけないと考えました。
JRは人を生かすために人からすべてを取り上げることにしたのです。
そして世界はJRという魔王を得ました。
異形たちの王です。
人に対抗する術など残されませんでした。
人はシステムを文字を失っていきました。
世界にはただ冷たい雨が降り続きます。
お題は〔強くはなかった。なれなかった〕です。
〔形容動詞禁止〕かつ〔キーワード「心臓」必須〕で書いてみましょう。
形容動詞禁止は無理。
http://shindanmaker.com/467090
お題は〔それでも、きっと、欲しかった〕です。
〔体言止め禁止〕かつ〔温度の描写必須〕で書いてみましょう。
http://shindanmaker.com/467090
目を閉じると、相手は嬉しそうな顔で頬を撫でてきました。冷たい雨が降る夜でした。
http://shindanmaker.com/532580
愛読書を手に生きています。仲間は百人以上でウザがられてます。目的は記憶を取り戻すこと。
ちなみに世界が終った原因はJRです。
http://shindanmaker.com/532568
祈りの代償として、大切な人と共に声を失いました。 http://shindanmaker.com/532548
「夜の部屋」で登場人物が「嘘をつく」、「制服」という単語を使ったお話を考えて下さい。
#rendai http://shindanmaker.com/28927




