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自縄遊戯  作者: とにあ
73/419

ダンスハウス

使用お題五つ

 

 町は光と闇がぱっきりと別れていた。


 深闇の中、ふぁあふぁっと気の抜けたあくびをするのは黒尽くめの女。

 薄っすら充血した瞳を瞬かせ、建物とゴミ箱の隙間から這い出る。

 隙間から見える肌の白さと唇の赤さが暗い闇の中で際立つ。

 薄汚れた鞄を引いてよろりよたりと暗い道を奥へと進んでいく姿は今にも転びそうで頼りない。

 四階建て相当の屋根の上からその様子を見下ろしていた男がゆっくりと立ち上がる。

 煙管を咥えるために口元を軽く緩めていた赤いマフラーをぎゅっと巻き直し、暗い路地まで垂直に飛び降りる。

 その動きは高さなど感じさせない軽やかさだった。

 チャリンっと首から下げた鎖が鳴る。落ちる速度に間に合わず、ほんの少し跳ね上がったのだ。

「わかってるさ。賭けはお前が勝ったんだ」

 コインがぶら下がる鎖を軽く握りながら呟きをこぼし、服の内側に乱暴な仕草で戻すと男は暗い路地の先を見据えた。

 洞窟の町ゲイブーク。

 浮遊布のリボンと汚職まみれの行政で有名な町。

 乱れついでに魔力の乱れた町としても知られている。

 女の向かった先は怪異が起こると言われている逆しま屋敷。

「ダンシングハウス、か。フザケてるぜ」

 ひと息吐き、男は大地を蹴った。

 ごぅっと音をたてて風が巻き起こる。そこには誰かがいた痕跡などどこにもなかった。ただゴミだけが風の勢いを受けてからからと音をたてていた。





 黒尽くめの女は路地の先、洞窟のどん突き当たりに佇む屋敷の入り口で膝に手を置いて息を切らせる。

 入り口は地上。建物は天井から生えている。屋敷の底は飾り模様と植物に覆われ静かだ。

 女はそこからじっと見られている視線を感じていた。強い魔力と観察する視線は非常に心を苛んでくる。

 それでも女は真っ直ぐにその入り口を見据える。

「わ、わたくしがっ、いのっ、り、し、しずめて、みせますわぁ」

 女は突っかかりながらも宣言し、途端むせこんだ。

 呼吸を落ち着かせるまでに所要時間は影の向きが変わるほど。

「さ。まいりますわ!」

 呼吸が整うのを待って一歩踏み出す。ひらり散る黒髪、髪に紛れ一本の角。

 彼女は祈祷師『黒の一角ひとつの』と呼ばれていた。

 己が神に祈り、不可思議なる魔法を操る者。それが祈祷師だ。

 一般的な魔法が己が魔力、周囲の元素魔力を活用するのに対し、祈祷師が揮うは己が結びのある神の力。

 神の力を使うものに神官もいるがその差は本人達には明確だ。

 力の行使の簡易性。本来、実用性、応用力が低いのが祈祷師だった。大呪でなくても儀式省略が不可避なのだから。

 屋敷を見上げればうっすらと纏う魔力で存在を光示している。

 女の足元に魔力光を受け、くっきりと濃い影が広がっていく。それを確認することなく女は歩みを進める。

 その歩みは静かなものだった。

 迷うことなく、扉をあけ、怪異の屋敷へと踏み込んでいく。

 女を飲み込み閉じられいく扉を蹴り開けたのは女のあとをつけていた赤いマフラーの男だった。

「見つけたぞ! 一角!」

 男がエントランスを見回してもそこに女の影はなかった。

「なんのようですの。緋喰(ひくい)。賭場でスってしまわれたんですの?」

 あきれ果てた声と共に女の目が闇の中、光を放った。

「いいや。一角。俺は賭けに負けたのは一度だけだ。お前の保護者。だから俺はお前を守る!」

 闇に向けて緋喰と呼ばれた男は一歩踏み出す。

「不必要ですわ。不浄な博徒なぞわたくしの活動の穢れになりますもの」

 闇の中、一角のツンっとした声が響く。

「ですから眠っているうちに出ましたのに」

 ぽつり一角がこぼす。

「夜逃げなんぞするような娘に育てた覚えはない!」

「育てられた覚えはございませんわ。生活費を食いつぶす博徒ごときに」

 マフラーから覗く男の目にいらりとした熱がこもる。

 一角は闇にそっとその身体を隠しこむ。

 熱を帯びた緋喰のその眼差しは一角には恐ろしくてたまらない。

 闇がじわりと一角の希望に呼応するようにひんやりと一角を覆っていく。

「待て!」

 響く緋喰の声。伸ばされる手。

 そっと一角は瞳を閉じ闇に引きこもる。

「逃げる奴があるか」

 緋喰は周囲を見渡し闇が減っているのを確認した。

 闇は一角が操る力だ。つまりここにはすでにいない。

 マフラーの下で緋喰は舌打ちをすると、乱暴な足取りで階段を下りはじめた。


「逃がさんよ」


 緋喰のそんな呟きも知らず、一角は闇の中息を吐く。

 緋喰の熱は彼女には重く物足りないもの。

「わたくし、保護者なぞ必要としてませんわ」

 一角は闇を操り屋敷の中核を探す。

『きゃはは』

 届く笑い声。

『楽しみましょう』

 屋敷の意思がふわりと輝く。

 そして、部屋が間取りがシャッフルされる。束の間、緋喰と眼差しは通う。手を伸ばしてくれる姿を認識しつつ、一角はただ、視線を外す。

 あの手は取れない。

 手を伸ばせない。


ある意味とても真面目すぎる祈祷師と過剰に責任感のあるギャンブラーの、どちらか一方の夜逃げから始まるラブコメ書いてー。 http://shindanmaker.com/151526

 とにあへのお題は〔手を伸ばせない〕です。

 〔地の文のみ禁止〕かつ〔温度の描写必須〕で書いてみましょう。

  http://shindanmaker.com/467090

 黒の梟です。人間の時は29歳くらいの容姿をしています。頭には1本の角が生えており、影を操る力がありますが、その代償に免疫力が弱く病気になりやすい体質で日頃から寝込んでいます。 http://shindanmaker.com/529285

 役所となぜか浮く茶色のリボンが有名な、くもった洞窟にある町です。

 最近突然踊りだす屋敷が問題になっています。

  http://shindanmaker.com/529270

 ジャンル:有翼

 年齢は30代後半~50代。テーマカラーは赤。暖色系の服をよく着ている。性格は荒っぽい。

 +oneデータ→顔を隠している

  http://t.co/Gt2xIyvYK5

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