表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自縄遊戯  作者: とにあ
63/419

僕の知らない君の声

使用お題ひとつ


終る恋の後話

 


 風が頬をなぞっていく。

 目を開ければ視界に飛び込んでくるのは鮮烈な樹々の色。

 暖かな光は白い色を帯びて柔らかな草が照らされている。

「Hello」

 君は大きめの日傘をさして、木陰にいた。

 白い長袖。ピンクのカーディガンはゆったり。つば広の帽子から流れ落ちるおろされた赤い髪。

 緑の中、柔らかく咲いていた。

「こんにちは」

 光なんか見えなくなっていた僕に、事情なぞ知らないであろう少女が微笑みかけてくる。

 姉の言葉が心を引きずるように苛む。

 世界の美しさなんか見えない。

「こんにちは。良いお天気ですね」

 日傘越しに日差しを浴びて少女が微笑む。

 太陽が出ている昼下がり。

 いい天気も何も悪い天気ってなんだろう?

 野鳥のさえずりが耳に届く。雨の音は聞こえない。

 世界は音に溢れてる。

「この世界が好きだと思うんです」

 少女は唐突に告げた。

 明るく告げる声が微かに震えている。

「私は死にたくない。でも、死んでほしくなかった。変わらない結果だと笑っていたってイヤだった。彼女が大好きだったから」

 僕は彼女をただ見つめる。

 少女は微笑む。

 緑の背景に咲く少女は今日はじめて出会った知らない声。

「ごめんなさい。貴方の瞳が彼女に似て見えて、訳のわからないこと、言っちゃって」

 微かに滲んだ涙を拭って少女は微笑む。

 僕は死んでも構わなかった。

「僕は、ただ、彼女が見たかった。彼女が見たかった。見たかったんだ!」

 唐突な僕の感情の暴発に少女がびくりと怯えたのを感じた。

 癇癪を起こしたように見えただろう。

 世界は色があると言われても、僕の心にはそう灰色に思えたんだ。

「会えないの?」

 少女の問いに僕は頷く。

「もういないから。でも、ここに居る」

 僕はそっと瞼を抑える。

 でも僕はもう君の声を聞くことができない。

「私もね、会えない。でも一緒にいるの。知りたかったのか、知らない方が良かったかなんかわからない」

 少女の手が僕に触れる。その手は震えていた。

 僕らは、迎えが来るまで二人で泣いた。

 病院の敷地の森の中。

 僕らは大切な誰かを犠牲にして生きている。

「約束したの。たくさん一緒にいろいろ見ようって」

「大好きだった。知らなかったんだ」


 少女が微笑む。


「……は好きな人に混じって生きたいんだって」


 僕は固まる。


 ああ君はそこに居た。

「ねぇ、名前を聞いていい?」



お題は〔僕の知らない君の声〕です。

〔オノマトペ禁止〕かつ〔風景描写必須〕で書いてみましょう。


http://shindanmaker.com/467090

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ