僕の知らない君の声
使用お題ひとつ
終る恋の後話
風が頬をなぞっていく。
目を開ければ視界に飛び込んでくるのは鮮烈な樹々の色。
暖かな光は白い色を帯びて柔らかな草が照らされている。
「Hello」
君は大きめの日傘をさして、木陰にいた。
白い長袖。ピンクのカーディガンはゆったり。つば広の帽子から流れ落ちるおろされた赤い髪。
緑の中、柔らかく咲いていた。
「こんにちは」
光なんか見えなくなっていた僕に、事情なぞ知らないであろう少女が微笑みかけてくる。
姉の言葉が心を引きずるように苛む。
世界の美しさなんか見えない。
「こんにちは。良いお天気ですね」
日傘越しに日差しを浴びて少女が微笑む。
太陽が出ている昼下がり。
いい天気も何も悪い天気ってなんだろう?
野鳥のさえずりが耳に届く。雨の音は聞こえない。
世界は音に溢れてる。
「この世界が好きだと思うんです」
少女は唐突に告げた。
明るく告げる声が微かに震えている。
「私は死にたくない。でも、死んでほしくなかった。変わらない結果だと笑っていたってイヤだった。彼女が大好きだったから」
僕は彼女をただ見つめる。
少女は微笑む。
緑の背景に咲く少女は今日はじめて出会った知らない声。
「ごめんなさい。貴方の瞳が彼女に似て見えて、訳のわからないこと、言っちゃって」
微かに滲んだ涙を拭って少女は微笑む。
僕は死んでも構わなかった。
「僕は、ただ、彼女が見たかった。彼女が見たかった。見たかったんだ!」
唐突な僕の感情の暴発に少女がびくりと怯えたのを感じた。
癇癪を起こしたように見えただろう。
世界は色があると言われても、僕の心にはそう灰色に思えたんだ。
「会えないの?」
少女の問いに僕は頷く。
「もういないから。でも、ここに居る」
僕はそっと瞼を抑える。
でも僕はもう君の声を聞くことができない。
「私もね、会えない。でも一緒にいるの。知りたかったのか、知らない方が良かったかなんかわからない」
少女の手が僕に触れる。その手は震えていた。
僕らは、迎えが来るまで二人で泣いた。
病院の敷地の森の中。
僕らは大切な誰かを犠牲にして生きている。
「約束したの。たくさん一緒にいろいろ見ようって」
「大好きだった。知らなかったんだ」
少女が微笑む。
「……は好きな人に混じって生きたいんだって」
僕は固まる。
ああ君はそこに居た。
「ねぇ、名前を聞いていい?」
お題は〔僕の知らない君の声〕です。
〔オノマトペ禁止〕かつ〔風景描写必須〕で書いてみましょう。
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