終る恋
使用お題ひとつ
生まれた時から光はなくて。
それでも困ることはなかった。
与えられるもので満足だった。
成長し、光を得てから知った。
僕は恵まれていて幸せだった。
はじめてうつす世界は空虚。
「見えないのにいるのがわかるの? すごーい」
君の明るく弾む声は静かな部屋の中で心地好く、君の軽く弾む足取りは家族のものとはかけ離れて。そして、気遣いのない無遠慮さはいっそ爽快だった。
そう、君は初対面にもかかわらず、遠慮なく僕に抱きついてきた。
僕は世話をしてくれる大人でない感触に驚いた。
つるりと指をすり抜ける髪の感触。柔らかな頬。睫に眉毛。唇に触れれば指を咥えられた。湿った舌の感触。
「不味い」
君の不満を湛えた言葉に僕は怒った。
勝手に咥えたのは君だったから。
君は僕の怒りなど気にすることなく笑い、口元に甘い匂いを差し出した。
僕の自分で食べることができるという主張をきかない君におし負けて結局、口を開けた。
「あーんして」
口の中に広がるのはいつものお菓子。それがどうしてかいつもよりおいしく感じた。
「はんぶんこ!」
君の声が耳元ではじける。
だから、目が見える可能性が高まった時、僕は君の事を一瞬でも見たいと願った。
僕の願いは届かない。
見たいと望んだ僕を僕は憎む。
世界は眩しくて情報に満ちていて。
両親の笑顔。
砕けていく僕の心。
「しっかり見なさい」
引き止めたのは姉だった。
「あんたの中であの子は生きてるわ。あの子が見ることが出来なかった世界をあんたが見るのよ」
厳しい声だった。そっぽを向いて告げられた言葉。
光を得て僕の恋は行き先を失った。
引き止めたのは姉。
僕は恵まれている。
君に恋することができたのだから。
とにあへのお題は〔恋をした日〕です。
〔推定表現(~らしい、~ようだ)禁止〕かつ〔手触りの描写必須〕で書いてみましょう。
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