忘却の家
使用お題ひとつ
でろりと手に乗るゲル状の物体。
不快感を示せば興味なさげに放置される。
何度か失敗して見つけた理想は無反応。
物体に興味を持ちつつ、そこに好悪を挟んではいけない。
お手伝いができてるから、いらないって言われない。こっちを見てくれる。
ぞりぞりと手を這い回るゲルに意識が遠のきそうだけど、落としちゃダメなの。
この子の方が価値が高いから、落としたらダメ。
転んだとしても、この子をかばうんだ。
おとうとっていう生き物は、よくわからない。
おとうとはよく大きい声を出している。
それでも、誰かに放置されることはなくて、声を出せば、誰かが来てくれて撫でてくれるのを知ってるようだった。
おとうとの方が価値の高い存在なんだなと思った。
愛するってなんだろう?
わからないけど、特別なんだ。
ぎゅっと抱きしめるんだ。あったかいよね。気持ちいいよね?
振り払われるとさむいんだ。
なにもしなくても撫でてもらえるのが不思議だった。
撫でて、そっとキスしてくれる。
嬉しくてどんな子でいるのが喜ばれるのか考える。
あたたかいベッドでもらうおやすみのキス。
ふわふわした気持ち。
おとうとと一緒に寝る。
感じる熱。邪魔にならないように小さくおとなしく丸くなる。
ぺとりふにゃりとおとうとが暴れる。傷つけるのが怖くて目が冴えた。
でも、心臓の音が重なってそのまんま意識が眠りに引き摺り込まれる。
きゅうきゅう寄り添って眠る。
起きてもべったり。
寝る前はほっぺたを不満そうに膨らませてたのに。
きいろいかぼちゃのケーキを手づかみで差し出すおとうと。口に入れたそれは甘く優しい味。
おかあさんが口元を拭いてくれて、おとうとと僕をお風呂に入れる。
絵本を読んでくれるおばあちゃん。窓ガラスがガタガタと強い風に揺られてた。
外には葉っぱのついてない黒い木の影がたくさん。お家は森の中にあったんだ。
あのお家にいたのはたぶん一週間。
かぼちゃのケーキを食べたいとたまに思うけど、あの懐かしい味とは違ってどこか寂しい。
そこは居心地良かったけど、長くはいれなかった。なにを間違えたのかわからなかった。
文化祭用のかぼちゃのタルトの試作品を口に運びつつ、ちょっと浸る。
柔らかい時間は短いんだ。
お題は〔君を忘れて〕です。
〔「かぎかっこ」の使用禁止〕かつ〔季節描写必須〕で書いてみましょう。
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