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自縄遊戯  作者: とにあ
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ちゅーちゅーのポゥ

使用お題三つ

 


 昼のキッチン、鼠のポゥはちまちまと料理中でした。

 たっぷりのチーズをパンのミミに挟んでオイルを馴染ませたフライパンに滑らせます。

 じゅうっっとオイルの跳ねる音とチーズのとろける香り、パンのミミが揚がる匂いにヒクヒクとそのヒゲと鼻が動きます。

 これを食べる瞬間がポゥは待ち遠しくてたまりません。

 想像し、口内に溜まる唾液。それをこくんと飲み込みます。

 ふっとポゥの耳が動きます。

 耳に入ってくるのは外で練習中の楽団の音合わせの音、そして駆ける軽い足音でした。

 キッチンの入り口に駆け込んできたのは山猫の少女ミャウリーでした。

 びくんとポゥは身体を揺らし、ギリギリと周囲を見回します。

「ミャウ! 抜け駆けは禁止だ!」

 続いて駆け込んできたのは青蜥蜴の青年カマテです。

 ポゥからすれば年下の可愛い子達でした。そう、つい最近まで。

「お土産にショートケーキ、もらってきたんだよ」

 ミャウリーがそう笑って小箱を差し出し、カマテがゆっくりと回って、手を差し出してきます。

「一緒に踊ろう。ポゥ」

 これが求婚の申し込みでなければポゥも踊ったでしょう。

 そう、ポゥはこの二人に求婚されてる最中だったのです。

 ぱちりとミャウリーとカマテの間に火花が散り、口論が始まります。

 その様子を眺めながら、ポゥはお皿にフライパンの中身を移します。小さく零されたポゥの言葉を二人は聞いていません。

「泣きたい」

 ちょっぴり焦げたチーズサンド。あれほど食べるのが楽しみだったのに今では注射針を突きつけられているような心境で食欲が遠いのです。

 ポゥの国はいろんな特徴を持った人たちの国です。

 のんびり気ままな猫の部族の人たち。生真面目な犬の部族の人たち。それぞれの特徴にあわせて棲みよい場所に棲み分けしつつ暮らしています。

 どの種族も苦手だなぁという作業は人形族の人たちが片付けてくれます。

 ポゥはこまごまと動くのが好きで溜め込み大好きな鼠の部族です。

 たまたま両方の性別を持って生まれたポゥは人形達によって『お姫様』と呼ばれて大切にされています。

 今だって二人の口論が激しくなれば人形達がポゥの前から彼らを排除するでしょう。

 ふいに二人の顔がポゥに向きます。

 びくんとポゥは身を竦めます。

 二人ともポゥより大きいのです。

「ねぇ、聞いてるの!?」

 二人は同時にポゥに言葉を突きつけます。

 先ほどまでお互いにむけて罵詈雑言。人形達に箱入りに育てられたポゥには意味の取れない言葉も多く、聞き取れません。聞けてなかったことにしょんぼりとポゥはうなだれました。

「もうじき月が満ちる夜がくる。湖の浮島で二人で踊ろう?」

「ううん、私と巨木の上で月を見上げて寄り添いましょう?」

 二人の言葉にポゥは首を振りました。

 二人のことは大好きです。

 それでもポゥにとって二人は弟妹でした。

 お嫁さんにもお婿さんにも考えられないのです。

「ごめんね。ミャウリー、カマテ」

 黒々としたつぶらなポゥの瞳に見つめられ、ミャウリーとカマテはくらりとめまいを覚えます。

 狩りを得意とするミャウリーやカマテにはないぽわっとしたライン、優しい気質。狩猟者の本能をそそるおどついた仕草。そのすべてが二人の好みだったのです。

 一度や数百回断られても二人は諦められないのです。

 三人の間に沈黙がおります。

 沈黙を破ったのは三人ではない存在でした。

 壁をコンコンと叩くノック音です。

「姫。訪ねることを許してもらえますか」

 柔らかな男の声でした。

 聞き覚えのない声にミャウリーとカマテは首を傾げました。

 ポゥのまわりに来る人は把握しているつもりだったので知らない声は不思議だったのです。

 二人の視線から外れているポゥはエプロンを外そうかどうかで少しもたもたし、ちゃんと結びなおします。その頬はほんのりと染まっています。

 幾度か呼吸を整えたポゥはきゅっと手を握り合わせ前を向きました。

「……許す」

 必死に形式ばった言葉をポゥは使います。

「失礼いたします」

 微かに笑いを含んだ声を伴い、現れたのは黒光りする部分鎧を身にまとい、腰に剣を佩いた鼠の青年でした。

 ミャウリーとカマテは嫌な予感が過ぎります。

「国に来られていたのですね」

 ポゥの言葉に鼠の青年は優しく笑います。

「はい。他の者から伝令の役目を奪ってまいりました」

 話によると異国の騎士のようでした。

 ポゥはその言葉に恥ずかしげに俯きます。

「仕事できたのでしたら、ここに来るのは礼儀知らずでは?」

 そう、ここは城の裏。ポゥの専用キッチンです。

「カマテ!」

 慌てるポゥに騎士は優しい笑顔を向けます。

「確かにそうでしょうね。しかし、私は姫に真っ先にお会いしたかったのです」

 ポゥはカマテを止めることもできずに真っ赤になって言葉を失ってしまいました。

 ぽつんと聞き取れぬ声で零された言葉は異国の騎士の名です。

「ちゅーちゅー様」

「姫、いえ、ポゥ。私の妻になってくださいませんか?」

 こくりと頷くポゥの姿。それを優しく抱き寄せる騎士。繊細な曲が外から流れ込み、二人を祝福するかのようです。



「お幸せに、ですね」

 それは人形の言葉でした。

「俺のポゥ」

「私のポゥ」

 人形達に押さえ込まれた二人は恨めしげに二人が寄り添うキッチンを外側から眺めます。

「邪魔してはいけませんよ」

 人形の一人が優しく子供たちを諭します。

 いつか、彼らとて年上への憧れではなく本当の恋を知るのでしょう。

 それを見守るのが人形達の役割です。

「ところで、ちゅーちゅー様は婿入りで良いんだよな?」

「たかが騎士だぞ? 婿入りに決まっている」

 人形たちは不確定な未来を好き勝手。

 そしてちゅーちゅーとポゥは露知らず二人で時を過すのでした。

必ず両性な鼠の獣人で求愛ダンスをされる話を書きます。 #獣人小説書くったー http://shindanmaker.com/483657


「昼のキッチン」で登場人物が「許す」、「月」という単語を使ったお話を考えて下さい。 #rendai http://shindanmaker.com/28927

小説のお題。

・お題「注射針」と「ショートケーキ」

・組み込み台詞「泣きたい」と「ねえ、聞いてるの?」

どうぞ小説をお書きください。

http://shindanmaker.com/398694

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