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自縄遊戯  作者: とにあ
46/419

二人の部屋

使用お題ふたつ

 途方に暮れてさらりと赤毛を揺らす。

 彼の目前にいるのは黒髪の少女。

 ホテルのルームキーは間違いはないし、ベッド脇には彼の荷物が置かれていた。

 それなのに、黒髪の少女はそのベッドの上にちょこんと座っていたのだ。

 ルームキーを壁にある差し込みにキチンと差し込む。

 ぽぅっと照明が光りを放つ。

 それは部屋が間違っていないということだった。

 テラスから差し込む夕焼けに彼は慌てて荷物をトランクの上に置き、テラスへと向かう。

 部屋のテラスから広がる風景は陽の沈む海という絶景。

 茜色に染まる世界。

 海に太陽がとろけていく。

 青年は夢中でシャッターをきる。

 同じような光景は存在しても同じ光景は存在しないのだと言わんばりに。

 数回、シャッターをきった彼はゆっくりと振り返る。

 そこには黒髪の少女。位置は変わっていない。ただ、その顔は彼の方を向いていた。

 びくりと彼は驚く。

 彼にとっては自分の部屋にいる異分子だ。きょろりと室内を見回す。

「フロントに、連絡を……」

 呟く青年に少女が反応する。

「フロントに何か御用でしょうか?」

 少女の鈴を転がすような可憐な声にぴたりと青年の動きが止まる。

 数秒沈黙が流れる。

「君はホテルの従業員?」

 尋ねる青年に少女は少し思案するような沈黙。

「いいえ。私はこの部屋の備品です。お客様の快適な御滞在をサポートする存在です」

 少女の言葉に青年は唖然とした表情。少しだけ間をおいて、もごもごと呟きを漏らす。

「備品? 備品?」

 少女がベッドから立ち上がったことを視認する。

「御用件は、なんでしょうか?」

 少女は青年を見上げる。

「びひん?」

 繰り返す青年に少女はしっかりはっきりと頷く。

「はい。部屋付きの備品です。御用件をどうぞ。ルームサービスからレストラン予約、ルームクリーニングに衣服のアイロン。マッサージ、その他の雑用もお任せ下さい」

 淡々とした口調。

 そして、少女は今『フロントになんのようだ』と聞いていた。

「いや、その。困るし」

 しどろもどろに青年は呟き、途方にくれる。

 少女は十代後半だろう。そんな年頃の少女がいたら、自分がくつろげない。でも自分を備品と言いきる少女をどう扱っていいのかわからないのだ。

 それが、青年と少女の出会い。




「わかってほしい」

 青年の震える声に少女はベッドの上で振り返る。

 取り外した右腕を膝に挟み、左手で器用に工具を操るその動作の延長で。

「ふぁんでてょうか?」

「ドライバーを口から離してから喋ろうか」

 青年にそう告げられた少女は困惑気味に左手の工具と青年を交互に見比べる。

 青年の様子には微かな怒り、苛立ちを感じた少女は早く指示に従いたい。

 人型自動人形(アンドロイド)にして、客室備品である少女は青年(きゃく)の希望に応えられる事こそが存在意義だ。

 しかし、作業中の工具を手放すわけにもいかず、咥えたドライバーを離す手は今右手だけだが、右手は取り外して膝に挟まれている。

 口を開けて落とすなぞ以ての外だった。しかし、早く指示には従うべきで少女の電子回路は空回る。

 そして結局、右腕も手に持った工具もドライバーも落下させた。

 がしゃがちゃと金属のこすれ合う音が室内に響く。

 叱られる事を待機している少女に青年はひとつ息を吐き、近寄っていく。

「整備は誰かしてくれないのかい?」

 青年からすれば、自分で調整整備しようとしている少女の姿は奇異に思えた。

 そういうのは専門の技師がやる事だという先入観が青年の中には存在した。

 疑問を口にしながら青年は落ちた右腕をそっと拾い上げる。ざっと眺めて人工皮膚に傷が付いていないことを確認する。ベッドの上にそっと置いてそのまま少女の足を軽く開かせる。

「傷はついていないね。落とした部品もなさそうだ」

 整備中の右腕からは配線や金属、ガラス質の基板が覗いている。

「はい」

 少女は静かに頷き、落としてしまった右腕の内部を透過確認していく。接触不良や破損、過剰負荷がかかっていないことを確信した少女は笑みを添えて青年を見上げる。

「わたしが理解すべきことがらはなんでしょうか?」

 青年から要求は滅多になかった。だから、客室備品として存在する自分が求められることに少女は喜んだのだ。

 青年は気まずげに視線を逸らす。

「ベッドで整備することは構わない」

 青年は問題があると考えている。譲歩である。

「だが、リネンの上に工具や交換パーツを直接置くことは見失う原因になると思う。それと、下着姿で整備は、……困る」

 少女はショーツとキャミソールという姿で整備中だった。

 青年の言葉に少女は首を傾げる。

 今までのお客様(ゲスト)は誰もそんな事は言わなかった。

 少女にベッドを使わせて、ソファーで寝ようとするお客様もいなかった。

 そして、ベッドメイキングは少女より丁寧だった。

 だから、彼女は青年を見つめていたい。今まで持っているお客様のパターンの新規として。

 彼の懸念が部品の損失と聞いて納得しつつ、同時にリネンが汚れることを厭うべきだと気がついた少女は頭を下げる。

 異性の前で肌を晒すことを良しとしない文化も世界にはあることも少女は知っている。ただ、ビーチやプールではこれ以上の露出は普通だが、青年は苦手なのだろうと解釈する。

 青年が時折、「妹妹妹」と繰り返して妹さんを恋しがっていることも少女は知っていた。

 青年と少女は友達だった。提案したのは青年。

 青年が泊まっている間だけの、期間限定の友達。

 普段は青年が外に出ている間に整備は済ませていた。帰って来るまでに終えていなかった自分自身を悔いる。

 不快感を青年に与えたのかと考えれば、意味もなく電子回路は空回る。浮かぶのは回避手段と記録してきた青年の表情。

 ぽんっと青年は少女の頭に手を置いて撫でる。

「皮膚に傷がついたら修復が大変なんだろう? ちゃんと防備しなきゃダメだろ?」

 そう言って青年は膝を見下ろす。

 二回、少女は瞬いて言葉を飲み込む。

 青年が少女を気遣ってくれたことを飲み込む。

「はい」

 少女の声はどこか晴れやかでそれを聞いた青年も柔らかく笑った。

「写真、見るかい? 泣かされたいと思えるほどに自然の雄大さがあるよ。せめて、その数万分の一でもうまく切り撮れるようになりたい」

 そう言ってテラスに、その向こうに広がる海に視線を馳せる赤毛の青年を少女はじっと、ずっと見ていたいと思っていた。

 振り返った青年はデジタルカメラをパソコンに接続する。

 青年は世界を切り撮る。

 青年は少女を撮らない。触れない。

「ん~。俺は人は撮らないんだよ」

 そう言って少女がテラスの掃除をしている間に、ルームサービスの料理を取りにいっている間に室内写真を撮るのだ。

「私は備品です」

 どこか悔しくて言い募る。

 その様に青年はただ笑うのだ。

「友達だろう?」


 ホテル住まいの写真家と未完成で欠陥疑惑のあるアンドロイドが、期間限定の友人になる話書いてー。

http://shindanmaker.com/151526

 今日のお題は、『見つめていたい』『泣かされたい』『わかってほしい』です。

#jirettai http://shindanmaker.com/159197

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