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自縄遊戯  作者: とにあ
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運命の環

 たまきの言葉を聞いて呆然となる。


『嘘でもいいから約束が欲しかった』?


 私が君にした約束はなんだというのだろう?

 異世界の扉をくぐった少女。

 私に嘘など吐けはしない。

 愛そうなどという仮定を約束することは出来ない。

 死ぬまでお前だけだなど言う寿命に関わる不確定を約束など出来ない。

 約束できるのは『今』この瞬間、お前に感じる好意のみ。

 先など約束できようはずもない。

 私が先に死ぬかもしれない。

 死した後にも続く『永久とわに』などと約束できようはずもない。

 今、この瞬間、お前を愛してる。

 だが『変わらぬ愛』など、約束できない。

 日と月が巡るたび、私たちは変わっていく。

 変わらずにいれようはずもない。

 ふわり柔らかな黒髪。

『約束をしないこと』が私が環に向ける誠実さ。

 キツイ眼差しがいとおしい。

 そう思える。

「嘘なぞ言えない。私は今しか約束できない」

「そういう人よね」

 みっともなく伝う涙。拭おうと差し伸べた手を払われる。

「私は、人ではないからな」

 生きる時間が違う。

 思考が違う。

 環の種族の外見に合わせて幻覚を見せているだけだ。

「そうね」

 払い下ろした小さな手がぎゅっと拳を作る。

 ふるふると小刻みに震えるのは怒りからか。

未来さきなぞ約束は出来ぬ。ただ、今は、私は環が愛おしい」

「私をかえして」

 君は世界に帰りたがる。

 だけれども帰したら会えなくなるじゃないか。

 私の言葉などどうでもいいのか。

 いらりと焦燥が私を煽る。

「愛おしいと、愛おしいとは言ってくれても愛してるとは言ってくれないのね」

 涙に潤んだ瞳はきらりきらりと輝いて、怒りに震える姿は何よりも美しい。


「約束だったね。君が望めば帰すと」


 帰すための準備は揃えた。言い出すまで黙っていた。環を手元に置きたかったのだ。

 君のまっすぐな眼差しはその決意を映しているかのよう。

 確かに約束だ。

 約束は守られるべきだろう。

 支度を始めれば君の眼差しはなおにきつくなる。まるで憎悪すら含むかのように。

「私のそばにいることに満足していると思っていたよ」

「……満足だったわ。ただ、貴方がわからないの」

 私にも環がわからない。

 ただ。

「叶えられる望みは叶えたい」

 私に出来ることなど限られる。

 未来さきはわからない。過去は変えられない。

 ここは私の棲家。

 上を見上げれば白の土柱、かつて環は『ショウニュウドウのようね』と笑った。

 大地の感触は私に心地好くても人の身たる環には向かなかった。

 環の警戒が薄れるまでの努力が脳裏をよぎる。


 木材を使って囲った鳥篭。柔らかい植物。環はよく悲鳴をあげていた。

 環は泣き虫で、すぐに声を荒げて泣く。

 私はそばにいるしか出来ない。ぽふぽふと撫でられるのが好きだった。

「馬鹿ね。なんて酷いの」

 環はそう言ってぽふぽふと撫でてくる。

「これで、後は発動させるだけだ。環。この世界で得た力は君の血脈に確かに影響するだろう」

 長く私の準備する食事を食べ続け、私の力の影響にさらされ続けたのだ。それは自明の理だった。

 環は黒い宝石のような眼差しを私に向ける。

 無論、わかっているのだ。私とて。

「環の名は『輪』その血はこの地に親和性を持ち帰還を望み引き寄せられる。その血を持ちて引き寄せられたならば、私は環の血筋の者を環との約束のもとに帰還させよう」

 起こりうる事態の忠告と事後処理の約束を。

「環のことだけを望みうるかはわからない。それでもその血を持つ者の訪れは私にとっての歓喜となるだろう」

「会いたいと思ってくれるの?」

「そう言ってる」

 ずっとそう告げていたと思う。

 ついっと、準備した魔法陣に環を押しやる。

「愛してるの」

 環が伸ばそうとした手が界渡りの魔法陣の結界に触れる。

 愛おしい環。

「また会おう」

 その魂と血脈が私に帰ってくれば良いと切に願おう。

 環。

「共にあろう」

 私の声が結界の内より聞こえる。

「え!?」

 抜け駆けた自我の欠片。

 腹立たしいが私はこの地を護る責がある。

「共にあろう。血が途絶えるまで」

 すでに届かぬ言葉。

 自我の欠片が笑う声が魂の奥で響く。

 未来さきなど見えない。過去は変えられない。

 約束など出来ない。心を凍らせることは私の在り方に含まれない。

 理解し得ない環。

 は巡る。

 私が何者かに討伐されぬ限り私は訪れを待つだろうけど。


あなたは『嘘でもいいから約束が欲しかった』幸せにしてあげてください。 http://shindanmaker.com/474708



しあわせ、かなぁ?

とりあえず満足そうな視点主

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