朝ごはん
使用お題ひとつ
夏が始まる。
世界を真白に染める陽射し。砂地やアスファルトはゴム底を溶かしそうな熱さを誇りはじめる季節。エアコンの効いた部屋で本をペラリめくる。母がキッチンで朝食の準備をしている。じゃれるように邪魔をしているのは父だ。
「シーン、シーツ引っこ抜くぞー」
「んー、好きにしてー」
双子の兄が俺のベッドからすでに引き抜いたシーツを抱えて笑っている。
「今日は天気いいからすぐ乾くぞー」
何が嬉しいのか機嫌よく洗濯室へ駆けていく。途中ひょいひょいとタオルや布巾を回収しながら。一度立ち止まってこっちに手をあげた。俺も手をあげ返して本を横に置く。
畳んである布巾やタオルをからっぽになった所定の位置に置いていく。なくても近くにあるんだけど、まぁ、いつものカタチだ。
洗濯をセットして戻ってきた兄はキッチンの両親の様子を眺めて呆れたように息を吐く。
兄は俺と違って朝食はしっかり派だから。
「父さん、母さんの邪魔しないでよ。おなかすいた」
手伝っていると主張する父に説得力はない。炊事能力に問題があるんじゃなくてすぐ妻好きを拗らせて接触に及ぶからである。(息子である俺らにもたまに嫉妬してくる)
兄のせっつきに母もようやく父を甘やかすのを控える気になったのか食器の準備を頼むという形で父を追い払う。
バターを持った兄がなんのジャムにするかを聞いてきて今日はりんごジャムを選ぶ。のんびりとした朝食はすこし甘め。けして両親のいちゃつきが甘めなのではなく食事自体だ。
兄はトーストにバターとジャムをつけて回してくれる。いつも通り俺の好みの量で。じわりとけたバターがジャムに絡んでいるのは薄めの食欲を刺激する。兄自身はオムレツとハムをトーストに挟んで頬張っている。その皿のそばにはキューブタイプのチーズの残骸も。ボリューミー過ぎて見てるだけで満腹になりそうだ。
トーストサンドのむこうがわ。ところどころにのぞく絆創膏や青痣はスケートボードで無茶をして転んだ痕だ。
「父さんあとでボードつきあってね!」
転んで怪我をしても懲りない兄にちょっと呆れる。父も笑って頷いて、ついでに俺のほうに視線をむけてきた。
「俺は楽器の練習するの」
エアコンの効いた部屋で。
体を動かすのが嫌いなわけじゃない。ただ、暑い日に外に出たいと思えないだけで。
言い訳的な思考にちょっぴり気鬱になりながらあたたかなミルクティをすする。
俺には兄ほどの行動力はないんだと思う。兄が甘やかしてくれてなにかと不満を感じることがないっていうところもあるのかもしれないけど。兄はどうなんだろうか? 実は不満がいっぱい?
まぁ、そうは見えないけどさ。いつだって楽しそうだし。
「シンはボードは苦手だもんね。じゃあ、今度ブレードやってみる? 楽しいよ」
「やるなら上のにーさんにつきあってもらう。マコはスピード狂過ぎるし」
見てるだけでおなかいっぱいなんだよ。心配で。
ああ、もう。しょんぼりしても譲らないから!
一緒に洗濯物を干してそれぞれにしたいことにうつる。最後までちらちらと兄の視線はまとわりついた。
母に見に行くだけでも行ってきたらと言われてもちょっと意地になって行かなかった。
本当に気にならないんならいいのに。
昼過ぎに一緒に洗濯物を畳んでいる兄は露ほども気にしている節はなくて俺の話す楽器のクセとかうまくいかない愚痴を聞いてくれていた。物足りないような安心するような不思議な感覚。
それはいつも通りの時間。
嘘のつもりはなかった。ただ実際に上の兄に頼む気なんてサラサラなかっただけで。
それが嘘だというのなら、確かに嘘だったんだろう。
にこやかな上の兄が目の前にいる。足元にはエアボードと急勾配。差し出される手。竦んでいるのがバレるのは悔しくて一歩足を踏みだす。
とんでもない快晴に絶景。
夏ははじまったばかり。
夢じゃないんだろうか?
何度も自分に問いかける。
何年かごしに嘘は本当になった。
夏が始まる」で始まり、「嘘は本当になった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以上でお願いします。
#書き出しと終わり #shindanmaker
https://shindanmaker.com/801664
文字数足りてない




