遠回り
使用お題ひとつ
たまには遠回りしてみようか。
いつもの十字路、普段入り込まない方を見つめる。少し行けば丁字路なのか塀がすでに見えている。塀の上から覗く庭木は綺麗に剪定されている。きっと住んでる人は丁寧な人なんだろうな。
一歩、言いつけの外に踏みだす。
心配する姉と喧嘩したわけじゃない。
ただ、いつものルートから外れてみたくなっただけだ。
ひとりで出歩くことを嫌う姉は心配症で、その愛はちょっと重い。大好きだし、しかたないかとは思ってはいるけれど、たまに、歯向かいたくなる。
見知らぬ道は知らない目印にあふれていておれはきょろきょろと頭と視線を動かす。ぐるぐると目が回りそう。だって、いつものポイントに戻ってこれる目印は覚えておかないと迷子になってしまうだろ。
「おー、にゃーーん」
嬉々とした少女の声が聞こえた。細い路地にむかってしゃがんで奥に手を伸ばしている小さな女の子。猫がいるのかなとおれも好奇心が刺激された。そっと少女の後ろから路地を覗く。ひゅっと何か生き物の影が去っていくところだった。
「にゃーーんいっちゃったー」
下からの声に見下ろすとしゃがんでいる少女がおれを見上げていた。
「尻尾しか見れなかったな」
「えー。すっごいかわいい子だったよー。白地に黒ぶちでまだ大人になりたてーって感じのにゃーんだったよー」
残念だったねとばかりに懐っこく説明されてこころがほころぶ。
「そっかー。おれもちゃんと見たかったな」
「見かけたらネネが教えてあげるねー」
「ありがと。ネネちゃんっていうんだ。おれはタイガ。ネネちゃんのおうちはこの辺りなの?」
「このあたり?」
不思議そうにネネちゃんは髪を揺らす。
「んー、うーうん。にゃーーん追いかけてきたの!」
どうもネネちゃんは迷子だった。
おうちの近所になにがあるのかふわふわ話題の飛ぶネネちゃんに聞いていく。商店街の方はおじさんおばさんに連れられて何度か行ったこともある。
たぶん大丈夫。
「送ってあげる。知っている目印あったら教えてね」
ネネちゃんはニッコーと笑って元気なお返事をしてくれた。
「ありがとう。タイガくん!」
それがネネちゃんとの出会い。
無事たどりついた商店街の自転車屋さんで顔見知りのおじさんが家に連絡を入れてくれて送ってくれることになった。
きっと姉さんに怒られるんだろうな。
そうは思うけれど、知らない道も知らない子も知っていくのはとても楽しかった。
「またね」
そう言っておれに手を振っていたネネちゃんはかわいかったなって思うから。
ただ、姉さんをいつも以上に心配させたのは不本意で。心配は少しでよかったのに。
思ったよりかかった時間。楽しかった時間の対価。
これからそれと向き合うのかと思うと、ああ、気が重いね。
「たまには遠回りしてみようか」で始まり、「ああ、気が重いね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。
#書き出しと終わり #shindanmaker
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