森に降る雨
使用お題はひとつ
ユファはイヤになるほどの巻き毛だった。
焦げ茶という重苦しい色、量が多くまとまりの悪い癖の強さ。
貴族や、裕福な家庭の生まれの少女ならドレスが映えると喜んだかもしれない。
ユファはそうじゃなかった。
もてあます癖の強い巻き毛の落ちてくる一部を左右で束ねる。一部でもまとめておかなければ邪魔で、ひとつかふたつにまとめてしまえば、寒いのだ。
古い靴は蔦でかろうじて分解をおさえていた。
古い森の奥の小屋。そこがユファの棲家。
色あせた赤い服。
貧しい生活に体調を崩した母親が待っている。
ユファは思うのだ。母のように淡く細い髪を持っていたらいいのにと。
小屋にたどりついた時、とうとう壊れた靴にユファはため息を吐く。
ぽつんと森の中に建つ雨露をしのぎきれないみすぼらしい小屋。それは小動物が出入り出来るほど。
「母さん。ただいま」
深呼吸をして笑顔を作る。小屋の壁をこれ以上壊さないように慎重に、それでも勢いをつけて家に入る。
返事は期待していない。
「今日はパンを買えたわ! スープにするわね!」
返事も反応もない。
ユファはそっと冷たくなったおなかを抱えたい心境を抑える。
いつもなら、反応が返るのだ。それが、ない。
眠ってるだけだ。
そうユファは自分に言い聞かせる。
朝、小さく咳き込んでいた。疲れた体が深い眠りを呼んで寝ているだけだろう。本当は声をかけないほうがいいかもしれない。
それでも声をかけずには、確かめずにはいられなかった。
「母さん、調子悪い?」
ぼろ布のむこう、板と藁とでできた寝台に薄い布をかぶった人影。
ユファは小さく胸をなでおろす。
「母さん?」
いなくなってはいなかった。
母にはユファを手放せばいける場所があったはずだった。
置いていかれる日をユファは怯えて育った。
そして母にはいつも『置いて行け』と言い続けた。
失いたくない。
そして何よりも生きていてほしかった。
ユファは母親が自分を置いていけば困らない生活が出来ると信じていた。
母親はそこに、精一杯整えたみすぼらしい寝台に横たわっている。近づきたい。少しでいい微笑んでほしかった。
それなのに、近づくことが出来なかった。
「母さん、ばかだわ」
一歩、足を進める。その時のユファの声は不安で震えていた。
「置いていけば、もっと楽が出来たでしょ? どうしてこう頑固だったのかな?」
頬を伝う感触。
そっと細い艶のない手を取る。
「あたしは泣かないから。泣いてなんかあげないから」
とった手を頬に寄せる。
「あたしはしあわせになるわ」
微笑み宣言するユファに返る声はなく、冬に向かう風がガタガタと壁をただ揺らした。
お題は、
性 格:頑固
色 :赤色
世界観:中世ヨーロッパ
属 性:巻き毛 と ツーサイドアップ
になります。
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