夕闇の鳥
使用お題ひとつ
冷たい風が頬を刺す。
姉が頬を赤らめて手袋に息を吹きかける。
「雪が綺麗ね」
海老茶色の毛布をぶわりと風に泳がせて手を広げる姿は大きな鳥が翼を広げているみたい。駆け寄れば毛布で包まれてあったかい。
「飛び出しちゃいけないわ」
困った子ね。とぎゅーっと抱きしめられてほっとした。
ちょっとだけのつもりだったんだ。迷子になる気はなかったもん。姉と毛布のぬくもりは親鳥に守られる雛の気分だった。
冷たい風が頬を刺す。
もう姉に手を引いてもらった子供の頃とは違うんだ。僕の方が身が軽く体力があるからなんて言い放って心配する姉を残して飛び出した。振り返らなかったのは僕はいつまでも子供じゃないと示したかったから。
靴の下でギシギシと薄板が軋む。崖にかかる古い足場が壊れる前に駆け抜けなければいけない。コートの下に仕込んだ鞄に入った荷物を届けるために。
凍える山道。
噴きあげる風は冷たく頬を刺すが雪で視界を奪われない分、安全を確保しやすいはずだ。父が教えてくれた数少ない役立つこと。山の危険をたくさん教えてくれた。雪男や山童を探す合間に。だから、急いで。それもちゃんと慎重に。
「飛び出してしまうあたりが子供なのよ」
僕を迎えてくれた母が柔らかく微笑む。その後ろから父が「来たか」と笑う。
急かすように求められた鞄を渡せば、父は振り返ることなく奥へと駆け出した。困ったように笑う母が僕の腕を引く。
「あなたもいらっしゃい」
連れて行かれた先で見た光景を僕はきっと忘れない。
沈みゆく太陽の名残りの中見たことのない鳥が警戒するように翼を大きくひろげている。その姿があんまり綺麗で、目頭が熱くなった。
「冷たい風が頬を刺す」で始まり「あんまり綺麗で、目頭が熱くなった」で終わります。
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