ハレの日に
使用お題ひとつ
私は晴れの日が嫌いだった。
いつだって失うのは晴れの日だったから。
はじめての恋は雨の日。人目を忍んだ雨やどりの洞で逢瀬を重ねた。けぶる雨で冷えた体を寄せあってぬくもりを分かち合う。
盲目の恋だったのか、真実の愛に至る過程だったのか今はもうわからない。晴れた佳き日に心も体も引き裂かれた。
忌人だなんて知らない。あの人は優しい人だった。あの人は、あの人は。
雨のひと粒も降らなかった。
父様がおっしゃるの。
『健やかな稚児を抱けるお前を迎えると貴き方がおっしゃる。しかと勤めよ』
そう、私とあの人の吾子はどこにいるの?
吾子は、ややこは泣くものではないの?
私、聞いていない。
「父様、ややこは、吾子はどこに?」
雨はひと粒も降らず晴れた空にヤマドリが声をけたてている。
私は床に伏せながらあの人を追うことも吾子を流したという川辺に寄ることもできずよく晴れた佳き日に知らぬ里へ知らぬ男のもとへ嫁ぐのだ。
よく晴れた佳き日に。
ややこの泣く声が聞こえる。
しとしとと雨が降る。
私は娘の手を振り払い、雨の中ややこの声を追う。
吾子。吾子。
よく晴れた日に私はなにかを失って雨の日に吾子を、あの人を求めた。
辿りついた先は大きな大きなみずたまり。
私はそこで出会った主さまに名をもらいヒトを捨てた。
吾子もここにたどり着いただろうか?
吾子もヒトを捨てただろうか?
よく晴れた佳き日に私はなにかを失っていく。
いつしか彷徨った私はのばされた手を取った。
『一緒にいこう』
それはやはりよく晴れた日で。
私は同じようになくしものを続ける彼の手を取った。
よく晴れた日に私はヒトに戻る。
雨が降ればいい。
雨が降ればいい。
私はあなたの望んだ願いを叶えてみよう。
私にはわからない願いだけど。
かわりにあなたはくれたから。
雨が窓ガラスを叩いてる。
私は晴れの日にあなたを失ってしまうのかしら?
うつうつとつまらないことを考えてもう顔も覚えていないあの人を思う。いつかあなたも忘れてしまうのだろう。けれど、今はただこのまま手を繋いでいて。
「私は晴れの日が嫌いだった」で始まって、「このまま手を繋いでいて」で終わる物語を書いて欲しいです。可哀想な話だと嬉しいです。
#書き出しと終わり
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