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自縄遊戯  作者: とにあ
342/419

かぼちゃ畑で

使用お題みっつ

 



「旅に出たい」といつだってぼやいてた。

 夜のかぼちゃ畑で案山子にむかって。

 剣の腕も戦いの才能もない俺はこの村から逃げたかった。いつだって寄り添ってくれる恋人がとてもできる女すぎて息苦しいのに離れられないんだ。

 そんな時に月光色の竜が俺の前に降りてきた。

 怪我をした渡り鳥でもないだろうに。美しい夢と誘惑に満ちている。

 月光色の竜は美しい乙女に姿を変えた。

『どうか、私を地上にかえしてください』

 朝もやに乙女はとけた。

 そんな夢を俺は恋人に告げる。

「浮気?」

 にこやかに笑っていない声で詰られる。

『違いますよ』

 上空から月光色の竜が告げる。

 村人たちは逃げまどうことも忘れただ見上げ、立ち尽くす。

 その背に掬い上げられ、ぐんぐんと視界が青と白に染まる。

 ちまりと浮かぶ灰色の城。

 あそこになにがあるのか。

 打ち破る見えない壁がきらめくカケラをこぼしていく。


「時がきたのね」


 尖塔の屋根を壊せば、佇む姫君がそう言って俺に手を伸ばした。

 月光色の竜はいいにおいのする姫を掬い上げ俺が姫を支える。


「私、大地が見たいわ」


 蜂蜜色の髪を揺らし笑顔で見上げてくるのだ。

 月光色の竜は自由に飛び討ち払われた戦火の跡地を巡る。

 それはあまりにむごい光景だった。

 もっと綺麗な優しい風景だってあるのに月光色の竜は最もむごい光景を選ぶ。

 見たくない。

 俺はこんな現実を知りたくなかった。


「ありがとう」


 姫君は笑っていた。


「全部、持っていくわね。ごめんなさい。ありがとう」


 俺の腕の中からするりと姫君の感触がぬくもりが消える。

 赤い沼に姫君の髪が飲み込まれていく。

 わからなかった。

 理解したくなかった。

 背後で破壊竜の咆哮が聞こえる。

 月光色の竜はその横をすり抜けるように飛び俺を村へと連れ帰った。


 俺は夜のかぼちゃ畑で案山子にむかう。

 姫君は全部持っていった。

 戦場の跡地は草原や樹海に変わり、毒の沼は湖に還った。

 俺はあの子に優しい地上を見せれなかった。

 あの子が最も病んだ沼に沈むまでにちらりとでも優しい光景を見せたいと思ったのに。

 恋人は妻となり小さな子供達にも恵まれた。

 苦しみはあっても今、絶望はない。


「ありがとう」


 俺は姫君になんの言葉もかけてやれなかった。その覚悟も感謝も謝罪もなににむかっているのかを知らなかった。

 神託の姫。

 すべてきよめる姫君。

 俺は救い手たる君を知らない。

お題は【秋】の季語である「渡り鳥」を使った「ハニートラップの」お話です

#季節しばりのお題

shindanmaker.com/893447

天に浮かぶ城に住む騎士。神経質で不安要素はすべて潰さないと気が済まない。己の地位をおびやかす姫を陥れ幽閉する。

趣味はお菓子作り。

#もし悪役だったら

shindanmaker.com/717354

へっぽこ剣士です。

口ぐせは「旅に出たい」。夜の畑にいることが多いです。大好きなひとの傍にいたいと思っています。

賢者とは恋人の関係にあります。

#もしもあなたがファンタジーの主人公だったら

shindanmaker.com/905519

悪役ほぼ出番なし

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