口をふさぐ
使用お題ひとつ
今の状況を冷静に考えてみよう。
私は従僕の家に生まれ、兄が主君に仕える侍従、私はその補佐となるよう定められた。そして、主君たる若様の妹君の嫁ぎ先まで仕えていく身だと思っていた。
若様は少々軽い振る舞いをなさるが職務には忠実でそのお力になる喜びは多大。
「うん、うちのばかわいい妹になにか不満でもあるのかな?」
若様のさらりとした髪が揺れる。
「確かに異世界に生まれ変わっただの、おとめげーむ転生だのわけのわからない突拍子も無い妄想に耽ることも多いが、最低限はできるなによりも飽きない娘だぞ?」
若様、それ褒めてないですよね。
「だから、第二王子の愛室にも滑り込んだんだろう。我が妹ながらなかなかに優秀だ。突拍子もない行動は社交界では顰められるが、ど田舎かつ荒ぶるど辺境では良い退屈しのぎの存在になれるだろう。お前はその横で辺境公家の次期侍従長の座を狙うがいい。我が妹の夫としてな。相変わらずアレはお前に惚れてるらしいしな」
若様、最後の発言は不敬罪になりかねません。胸張って透視盗聴避けはしてると言いはらないでください。やってるのは私です。あと無理難題多いです。
そんな会話を経て今、辺境の地で私たち夫婦の部屋で二人向き合う。
幼い頃から何度となく泣かせかけて慌てたものだが、今だってそう慌てないではいられない。それ以上に動揺しているらしい彼女は気がついていないのが幸いだろう。
柔らかなココア色の髪は一片の乱れもなく整えられ、白いブラウスは一番上の釦が外れている。緊張しておられるのか、膝のあたりでスカートを握りしめているからあのままではシワになる。
ああ。二人部屋の裏には屋敷の準備の優先度が他家の姫君方優先のせいだ。私は文官としての仕事と侍従長を目指すため、ほぼ部屋にはいないだろうし。実際のところ問題はない……わけがないだろう。私にどこで寛げと!?
幸いなことに辺境公の引継ぎにより、人員不足となったこの地では専任侍女やら騎士が不足しており、付属で付いている使用人部屋があいていた。本来なら当番の侍女が詰める小部屋だ。
「私はあちらで休みますので姫さまはこちらでおやすみください」
なにか発言される前に切り上げるのが正しいだろう。妻と言っても名目上であり、触れてはならない姫さまなのだから。
逃げるように使用人部屋に入ってその殺風景さにほっと安堵した。
「震えていたな」
こわがらせるつもりも思いつめさせる気もなかった。
「いっやぁあああ。せまりそびれたーーーー!」
「姫さま。声が大きいです。あと、色気が足りません」
少し後悔してた矢先に閉じた扉の向こうから聞こえてきた雄叫びに高速で戻った。
「姫さまだなんて、名で呼んでくれなきゃ」
恥ずかしそうに俯かれてもこちらが恥ずかしい。
「できかねます」
ああ、確かに飽きない。
いつだって驚かされる。
ふてくされる様はまだまだ少女で、幼い頃からずっと成長を見守ってきた妹のようなもので。
「だって、夫婦なのよ?」
「あなたは辺境公の愛室なのです」
大きな目を潤まされてもここは譲れない。
「そーゆーお渡りはないと思うのよ?」
可愛らしく見上げてきてもダメです。
国の第二王子でもある辺境公にとても姫さまは気に入られている。
「だって、ヘタレだし、一途だし」
「姫さま!」
それ以上は不敬罪です。
「脈はなくてもあの方がお好きなのはお一人だけよ?」
それは口にしてはいけないことです。
複数の正妻、複数の側女。複数の愛室。こう言えば姫さまの立場は実に弱い。高位貴族の次女や三女、継ぐ土地のない三男坊や分家の末端。辺境公の部下はそれで占められている。うちの姫さまも少々難有りの妾腹の姫。将来的に下げ渡しを望む恋人同士もいるのは知っている。それは褒められたことではない。それでも、ここでの働きで身分を得れば釣り合いが取れるのではないかとも思ってしまう。
「ひとりだけよ。私にとって私の王子様が、ずっとあなたひとりだけなのと同じように」
何気ないを装いながら言い切って、姫さまは私を見上げてる。
そのようなことを言ってはいけないと注意しなければならないところなのに、喉が引きつったように思考が麻痺していくようにただただ姫さまをみつめる。
いつだって突拍子もなく、振り回される。
主君のばかわいい妹姫。
幼い初恋の熱病を忘れていなかったと言われても、私がいだくべき想いは忠節であるべきだ。
令嬢らしからぬ行為。奥様が「早く引き取るべきだったのよ」と噛むレース。
「私、あなたが」
そこから先は言わせてはいけない。
ココア色の柔らかな髪。小さく柔らかな守るべき存在。
なぜか目が離せなかった。
「今の状況を冷静に考えてみよう」で始まり、「なぜか目が離せなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば13ツイート(1820字)以上でお願いします。
#書き出しと終わり
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