あめふりバタフライ
使用お題ふたつ
手作りのアップルパイ。添えられたバニラアイスにミントの葉。セットドリンクは紅茶に珈琲、ジャスミン茶。限定十セットはいつだってきちんと完売してる。
私のお気に入りはジャスミン茶でのセット。だって香りが素敵だもの。
黄色いチョコの星がパンケーキに飾られる。
つい先日は鯉のチョコだったのだから、これは私の番ということなのだ。
外を望むステージに年に数日飾られる。
しまわれていた古い織り機を綺麗に磨いて、椅子や御簾を設置される私専用のステージ。作り物の笹が陽射しを遮るの。
ガラスのむこうはほんのり歪んだ幻のよう。
しとしとと雨がふる。
「じゃあ、しばらく看板娘よろしくね。織姫」
マスターの声に私はピンと背を伸ばした。
蝋で作られたアップルパイにアイスクリームミントの葉。星のチョコと短冊付きの爪楊枝を飾って美味しそう。
窓の外は紫陽花と濡れて色の沈んだタイルに街灯の黒い柱。私の知る季節は雨に滲んでいる。
雨粒が歪める世界の中で傘の花が咲く。
一年に一度、愛しい人との逢瀬の日。天の織姫は天の牛飼いに出会うのだと。
だから私は期待する。
私の牛飼いはどこかにいると。
一年に一度、会えるというのなら私の一年はまだ巡っていないのかしら?
甘い香り。囁くような会話。流れていく優しい時間。
去年紫陽花前でひとつの傘に隠れた二人が窓越しに私を覗きこんで笑ってる。
ためらった風の少女を引いて少年が店の入り口をさす。
お客様は歓迎よ。
普段くる年齢層より少し若い彼らはステージ以外に待機するように飾らされた私達を見てほんの少し声をあげた。
ステージにいる私にとって客席は死角で見えないけれど、はじめてのお客様の反応はわかるの。
お約束の反応に嬉しくなる。
私の姉妹たちはとても美しいのだ。
そわそわとせわしなく落ち着かない空気で二人はアップルパイのセットを頼む。ドリンクはアイスミルクティ。
数少ないお客様たちもかわいい新入りのお客様をちょっと見て微笑ましげな雰囲気を出したようだった。
小さな空気の乱れはゆっくりと穏やかに戻っていく。小さな恋人たちは会話もなくアップルパイにフォークをいれる。振り返って様子が見たいのにステージにいる私に自由はないの。
窓の外はしとしとと雨がふっている。
夜のシェードの内側で私は織り機に手を伸ばす。
お客様のいない店内は私たち姉妹とマスターだけ。
赤茶色主体の店内を姉妹たちが掃除する。
「織姫、今日のお客様かわいらしかったわ」
ひよりと白く長い耳が白いショートカットの髪の上で跳ねる。水色のワンピースに白いエプロンの白兎。
「あのね。ひよこが接客したのよ」
緊張しちゃったとふわふわ白兎のエプロンを掴んで頭を押しつけてるのは綿菓子のような金髪の少女。白兎とお揃いのお仕着せなのに受ける印象は違ってる。
「イースター姉妹! 手が止まってるわよ!」
他の姉妹の声に二人は顔を見合わせて笑う。
「お茶の時間にね」
そう言う二人を見送って私はゆっくりと織り機を動かす。去年の二人は結ばれた。きっとここから進んでく。愛の熱に焦がれる夜、私の牛飼いはどこにいるのか。
「雨がふってるわ」
いくつの恋人達のえにしを織れば私はあなたに逢えるのかしら?
「織姫、私たちは人形なのよ」
静かに囁かれた輝夜の声を聞こえないフリをする。
私たちはマスターに仕える人形姉妹。
お相手なんていはしない。
わかっていても私は求めてる。
星の海を天の川を見上げたいのに雨がふっている。
カランと裏口の鈴が鳴る。
姉妹たちは静かに控えた。
「マスター、注文の品お届けにあがりましたっ」
聞き覚えのない声の配達員。
「雨の中、ご苦労様。おや、いつもの人と違うんだね」
「はい。いつもの旦那が腰をいためてしまって。こちら身分証明書です」
「確かに。お大事にとお伝えください」
「荷物はどちらに運べば?」
気さくにマスターが案内し、配達後のお茶をすすめてる。
「すごいですね」
声が近かった。
「彼女たちはウチの大事なスタッフなんだ」
得意げなマスターの声に口角が上がる。
声が近かった。私のすぐそばの特別席に案内された彼は私をじっと見ていた。
十五夜の時期ならば輝夜がここで書を眺めるか、琴を爪弾くか。
今は私が織り機に触れている。
夜だから、店内をむいていたの。
ねぇ、あなたの瞳は星のようね。
トゥルーエンドの、おもちゃが主人公で七夕をテーマや舞台に書いてください。
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地元の小ぢんまりとした喫茶店のマスターです。
人気のメニューは手作りアップルパイです
お客さんは静かにリラックスして行きます
お店の名前は『しらす』です
#あなたが営む喫茶店
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