昔話を
使用お題ふたつ
靴の中に小石が入っているような違和感。
実際に靴の中に小石が入っているわけでなく、人生におけるほんのひと時、ほんの僅かな不快感と言える。
それを呼び込んだのは一通の手紙だった。
遊びに来るとただそれだけが書かれた君からの手紙。過去と無縁の穏やかな此処に過去が押しかけてくる。
過去を捨ててこの牧場で暮らしているのに。
見渡す限りの広い土地。遠く去り行く車の音。大きな荷物を抱え、この場所にあわないヒールで君は立っていた。
「だって、あなたがここは任せてなんて言ってわたしをおしやったから。終わったあとも連絡先が伏せられていてとても心配したんだから!」
そういえば日付けは記載されていなかったか。
大きな鞄を放り出し飛びついてきた君からはオレンジのソープの香り。
「君は君の人生を生きるべきだろう」
こんな怪我をした年寄りのそばにいるより。
そんな思いは知らないとばかりに君は鼻で笑い飛ばす。
「あら。わたしはわたしの人生を生きるわ。決まってるじゃない。それを決めるのはわたしなの」
ふわりと揺れる髪が鼻腔をくすぐる。これは少しきつい拷問。
「だから、ここに来たの。わたしあなたと居たいわ。落ち着いたら昔話をしてくれるのでしょう? ほら、昔話も未来の話もたくさん時間はあるわ!」
ひるがえるスカートがターンを描く革靴のヒールが、虹を描くように眩しい。
平均的な恋人同士というには年の差がありすぎる気もする。
彼女は眩しすぎるから。
「まずは荷物を部屋に置こう」
「ええ。ねぇ、手紙は届いた?」
「ああ、届いたよ」
動きやすい靴を準備してふわふわしたスカートは危ないからもっとしっかりした衣類を。
「あのね、車はかえしたわ。貯金は全部寄付したわ」
は?
「無一文のわたしを追い出したりしないでしょ?」
「バカか君は!!」
その言葉しか出なかったことは許されていいだろうか?
「これからにこれまではいらないって思ったのよ! これが私の本気よ! バカで結構」
「君に人生支配されそうだ」
人生は理不尽だと、見上げる空はどこまでも明るく見える。
場所:牧場
書き出し:靴の中に小石が入っている様な違和感。
三題:ソープ/平均/拷問
台詞:「ここは任せて」
テーマ:デレデレ
字数:1,145字以内
この中から2つ使って書こう
#とど診断
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お題は〔昔の話をしてほしい〕です。
〔地の文のみ禁止〕かつ〔キーワード「手紙」必須〕で書いてみましょう。
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