落ちた
使用お題はひとつ
『ずるい』の別視点
今日は作業がないと申し訳なさそうに社長に言われた。
今日の訪問は社長が担当日で、定期清掃は他の社員の仕事だ。電話番をしている事務員、社長の娘さんが申し訳なさそうに頭を下げた。
僕の住むこの町は過疎化の進むかろうじてベットタウン。駅から少し離れてるとはいえ、集合住宅があり、線路を挟んで一軒家や畑が広がっている。
作業依頼は主に一軒家の方からくる。
集合住宅の方は別の業者の縄張りと言える。だから、仕事は限られるのだ。生活を心細く思いつつ、ぽつんぽつんとある民家を眺める。
昔ながらの日本家屋っぽい。平屋かかろうじて二階がある家が主流だ。車二台が停めれるような庭。縁側。小さな池。大概の家で生け垣やら庭木やらの手入れは行き届いている。ゆったりとした佇まいは土地の安さと、古い人たちが多いからだろうか?
そんな中、数ヶ月前持ち主が変わったその家は鬱蒼と荒んだ風情を醸していた。
ふと、視線を上げると二階の窓から上半身を乗り出して空を仰いでいる人物がいた。
呆然と見上げているとその人物はごろり。そんな感じで体を反転させた。
息が、止まるかと思った。
つい出たのは危険を告げる言葉。
その人物はびくりとバランスを崩し、二階の窓から落下した。
慌てて庭に入り込むと深い雑草の中じっとしている身体。まるで、死を連想させて体が震えた。
全てが真っ暗に染まったかと思うほどに手が震える。手だけじゃなく体が震える。
バクバクと心臓の音がやたらとうるさい。
思ったことはクビになるという実に利己的なこと。クビになれば生活資金が断たれ生きていけないのだから重要なことだ。
でも、落ちた人の怪我の有無を気にすべき時に自分のことばかりで自己嫌悪する。
声をかければ、怒鳴られてホッとする。生きている。
気怠げに追い払いつつも動きは緩慢で痛みがあるようだった。
僕は幸運に感謝する。
空白の時間を彼の役に立とうと思った。
町の何でも屋。雑用係だ。多少のことは慣れている。
屋内は、外側以上に荒れていた。
流しには汚れ物がそのまま。机の上は使い終わったコップにインスタント食品の残骸が溢れている。完全な汚部屋かと思えば、戸棚の中は触った形跡すらなかったり、実にチグハグな印象だった。
打ち身や外傷など怪我の類は意外と心身を疲弊させる。
彼もその例に倣って意識を夢へと飛ばしたようだった。頭は打っていないと言っていたものの自己申告なので心配だった。
冷蔵庫にはビールや水、サラミ総菜といった最低限しかなく、冷凍庫にレンジアップ用のレトルト品がそこそこに入っていた。
身体の事をあまり考えていないようだった。一度、出て買い物に向かう。この辺りでは戸締まりはあまりしない。最近、推奨はされてるが、古い人たちにはあまり合わないらしい。
彼は僕の作った料理を食べながら沈黙が耐えられない僕の語りを聞き流す。と思えば聞いていて、仕事として依頼してきた。『遺品整理』の言葉に彼が独りだと思った。
二階の部屋以外の物は基本彼の私物ではなく、この家に遺された遺品だという。
片付けからはじめた。
片付け食事の支度。ほぼそれだけで良かった。
使わない衣料品だけ処分し、物の置き場所だけ説明した。あと、洗濯機の使い方説明とか。家事代行だけど、天満さんが見ておきたいと言ったから。
彼の名前は暮原天満さん。「お仕事は?」と聞けば、にやにや笑って「ニート」と言うような人だった。
怪我とは無関係に気だるげにタバコをふかす。ノートパソコンよりデスクトップパソコン。いろいろなサイトを眺めて時々、キーボードを殴るように叩く。この時はタバコは火を付けない。家庭料理を物珍しげに食べる。細かい味はあまりわからないと笑っているが、僕の料理は気に入ってくれたらしい。
基本的に攻撃的対応をしてくるが、いい人だと思う。告げれば「簡単に他人を信用するな」と忠告してくれる。
天満さんはやっぱりいい人だと思う。
恥ずかしがり屋の浮気男と健康的でいやに行動力のあるニートが段々おかしくなっていく話書いてー。
http://shindanmaker.com/151526




