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自縄遊戯  作者: とにあ
327/419

異世界チャンネルFM7

お題ひとつ

 ラジオが流れてくる。

 あわせてるチャンネルはFMの七番。電波が悪いのか、時間はまちまち。でも、流れてくるピアノの音が好きだった。

 時々途切れたり、繰り返したりで聴いてるうちに「あ、ミスった」とかもわかるようになった。

 それはもう日常に組み込まれていた。


「最近、ラジオに電波届かないんだー」

「は? 通信法で指定通波以外禁止されたからラジオは全滅でしょ」


 あれ?

 そう言えば、そうだっけ?

 新しい通信システムで旧来のラジオはなくなったはずだった。新しい通信手段が落ち着き、今まで電波を拾っていたラジオ受信機は意味をなさなくなったはずだった。かつてのその周波を使う電波は闇通信と言われて違法だ。

 ラジオが音を流さなくなって一年。

 最後に聴いた曲はなんだか切なかった。

 だから、気になっていた。

 ラジオから流れ出す音なのにまるでそれは私だけのために奏でられてるような特別感だったから。傷ついてるって助けを求めているように聴こえたから。何もできない私が切なかった。

 ピアノは無理だと思ったけど、親類から中古のギターをもらった。

 習って部屋で練習を繰り返す。

 はじめて上手に鳴らせて嬉しかった。

 練習を続ける。

 ラジオが流した曲はなんだったか、記憶をたどる。指を動かす。

 ポンっとラジオからピアノの音。

 気のせい?

 はじめからもう一回。

 何度か繰り返すとピアノのメロディがラジオから流れ出す。


「信じられない!」


 ああ。この曲!


「好き! 一緒に同じ曲を合わせれるなんて!」


 声が出る。


「嬉しい!」


 これ、歌があればいいのに!

 あなたが弾いてくれたから、私は音楽に興味を持ち楽しむようになった。

 私はあなたに伝えたいの。

 あなたのピアノが好きで。

 あなたが好き。

 あなたの奏でるピアノの音しか知らないけれど、私あなたが好き。


「その曲なぁに?」

「んー、偶然聴いて耳コピしたの。むしろ私が知りたい」


 公園で友達と練習する。

 私が弾いて友達はダンス。

 誰か知ってる人に出会えるといい。

 あなたが弾いていた曲を知りたい。

 なんだか、あなたに恋してるみたいな気分。


「FM7って知ってる?」

「知らない。なにそれ」


 通りすがりの女の子たち。早口ではしゃぐ都市伝説。


「異世界チャンネルが開いてパラレルワールドの音が聞こえるんですって!」


 バカにしたような甲高い笑い声。

 本気にするなんて馬鹿げてる。あの子達だって信じてない。


「あー、通信法がいきなり変更されたのはそのせいって噂があったなぁ。おかげで新規開発の携帯端末たっかいたっら!」

「異世界だって」

「パラレルワールドって、並行世界だっけ?」

「うん、だったと思う」

「夢があるよねぇ」


 どこかちょっとかわいた笑い。

 異世界に夢を見るより、届こうが届くまいが今目の前の夢に手を伸ばしたい私たちには無縁だ。

『もし』を夢見るなら、まず、手を伸ばしていきたいから。


「そうだね」



 今日もラジオからピアノの音が聴こえてくる。

 いつもと違う曲。

 やっぱり知らない曲。

 もしかして、あなたは異世界の人?

 もしかしてもう一人の私?


 和音が鳴る。

 セッションへの誘い。


「私、その曲知らない」


 届かない言い訳。

 私はゆっくり知らない曲を覚えてく。


 今日もチャンネルはFM7。

かいて下さい!

「FM7が聞こえる」

【突然、和音が鳴ったんだ】

本気で青春を懸けたピアノに挫折して一年。部屋に突然ギターの和音が鳴った。別世界の同じ部屋に住んでいるらしい少女、交わせるのはピアノとギターの音色だけ。

shindanmaker.com/606989

ギター側

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