「FM7が聞こえる」
使用お題ひとつ
諦めた。
自分に才能はなかった。
防音のきいた音楽室が私の部屋。
情のない両親が自分たちの罪悪感を消すためにあてがった隔離部屋。
黒い相棒の上にあるメトロノーム。
不釣り合いなちゃちいラジオは壊れてる。
それなのに突然、和音が鳴ったんだ。
聴きなれない弦楽器の和音。
それは落ち込んでいる日によく聴こえてくるようだった。
ギターの音と気がついてから私は部屋にこもることが増えてきた。
相棒に身を寄せて指を握りこむ。
ギターの和音は、とても私を誘うのだ。
私は挫折した。
きっと栄光や名誉の光の中で相棒と立つことはない。わかってる。分かりすぎるほどに私は才能もなければ愚鈍な人間だ。
わかっているんだ。
自分がどれだけ無価値で意義のない人間かなんて自分で。
壊れたラジオが吐きだすギターの和音。
応じるように相棒を叩く。
ふっと音色が途切れた。
一拍。
曲がはじまり、止まる。
はじまる。
鍵盤を叩く。曲が続いた。
この誘いを誘いと思わないなんて無理だった。
だって誰かに私の音が届いているんだ。
嬉しくて嬉しくて泣けてくる。
ブランクで指がうまく動けない。でも止まらない止めれない。
それがなんとも言えず悔しくてそれなのに嬉しい。嬉しくてたまらなくて誰にも伝えられなくてもどかしい。
ラジオがギターの柔らかいメロディを奏でる。
伝わっていた。
気のせいかも知れない。
でも、聴いてくれていると信じたかった。
もちろん、こんな怪異に壊れたラジオを捨てようかとも思う。
それでも、ギターの音色が寄り添うように誘ってくる。
不安な時にギターは聴こえてくる。
もしかしたら幻聴かもしれない。
それでも、全部失ったと思った私には救いになった。
「ありがとう」
と歌ってみる。もしかして届いてるかもしれない。
ラジオから届くのはギターの音だけ。
「ありがとう」
私の相棒。
ギターの演者。
繋げてくれた混線ラジオ。
「ついでに声も届けてよ」
かいて下さい!
「FM7が聞こえる」
【突然、和音が鳴ったんだ】
本気で青春を懸けたピアノに挫折して一年。部屋に突然ギターの和音が鳴った。別世界の同じ部屋に住んでいるらしい少女、交わせるのはピアノとギターの音色だけ。
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