嵐の日
使用お題ひとつ
なんでこうなったのだろうか?
暴風雨警報にふさわしい嵐が窓の外でにぎやかしい。
雷鳴とともに死んでしまった電気は未だ復旧していない。嵐が過ぎ去らなければ無理だろう。
携帯も充電が不安だからSNSに繋ぐのも、ゲームするのも控えてる。
気まずい。
兄の服を着てくつろいでいる隣人が玄関や窓を大きな音とともに揺らす風に明らかにビビっている姿を突っ込んでいいのかとか悩む。
家の鍵をバイト先に置き忘れて帰ってきたという隣人(仲良くはない)がなにかと会話をふってきてうるさい。
食事を終えたテーブルがゆらゆらコップの中のLEDの光りに照らされる。
「それで鏡を見れば、そこには……」
「その子のお母さん?」
「!! なにそれ!? ハンパな怪談よりこえぇよ!」
「え。ほっこりしない?」
「彼女と行った夏祭りを母親に目撃されてる思春期の少年心をくじかないで!」
「そんなんでくじけるのかよ!」
「……あとでさ、なまぬるくリビングでつつかれる状況が思いうかんだよ」
「で、照れが勝った挙句、こじれて破局?」
「アリエソウ」
「家族に紹介できない彼女なわけ?」
「いや、そういうんじゃなくて。だいいちおれじゃないんだしさ。あー、なんつーかさ、ちゃかされたくない時期ってやっぱあるんだよね。自分の中で相手への好きをきっちりさせたいっつーかさ。やっぱ、やっぱさ、相手の気持ちにも確信ない時期は家族にちゃかされたくないとかさ。あるかな。わかるだろ?」
「わかんない」
「即答かよ!?」
青くなったり赤くなったり意気消沈したり興奮したりで騒がしい。
家族が見守ってたくらいで怪談より怖いとか感性の違いがありすぎて分かり合えない相手だと思う。
会話が途切れて風雨が窓を揺らす音が勝つ。
ベランダをなにかがカツンコロリと転がる音も届く。LEDライトがゆらゆらと緑から赤へと色を変えていく。
雨の道路を走る車の音がごく稀に響く。
まだ、陸の孤島にはなりきっていないらしい。
ひとりぼっちの島でなにかをみつけていく画がフッと浮かんでつい、手がそわつく。
イメージが逃げないうちにスケッチしたかった。
こうなると相手がいてもいなくても関係ない。絵が描きたい。
不安定に揺れる灯りの中でスケッチブックにかきおとしていく。
窓を大きく揺らす音に視界の端で跳ねた色が見えた。
「風が強いね」
「さすが暴風警報だよな」
少し上ずって聞こえるのは気のせいか。
「……コワいの?」
「そんなわけないだろ。安全な屋内にいるんだしな」
「ふぅん」
興味ないけどね。
「たとえこわくても好きな奴の前では頼りある姿を見せたいし」
「ふぅん。がんばれー」
「なんで、お前そういう奴なんだよ!?」
「ほっとけよ!」
ああ。こいつとはいつも喧嘩になる。
恋し方を知らない絵本作家と犬猿の仲のお隣さんが始めてしまった夜明けのこない百物語書いてー。
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