魔女の火焙り
使用お題ひとつ
ウソつき意地っ張り見栄っぱり。フラッカはそんなこと言われ慣れてました。
それでもくるりとスカートの裾を翻して笑います。
「人は見たいように見るもの。わたしは見せたいように見られたいの」
色鮮やかなスカートはおかあさまからの贈り物。今日の夕食はゆで卵と腸詰め。
詩集を読みながら小鳥の歌で眠る。
フラッカの見栄っぱりな嘘に大人達は眉間にシワを寄せます。子供達はそんな大人を見習うのです。
フラッカに冷たくしても、イジワルしても叱られないと子供達は知っていました。
フラッカは街はずれの小屋に独り住んでいます。
フラッカにはおかあさまもおとうさまもいはしないのです。
だからウソつきだという事実がそこに証拠のように思えました。だから、責めても間違いはなくて悪いのはフラッカなのですから。
それなのにフラッカはスカートを翻していつもニコニコ笑っていました。
「どうしてウソをつくの?」
「別に嘘はついてないわね」
街の子の言葉にフラッカはツンっとしながらもちゃんと答えます。
「イヤじゃないの?」
おどおどと周りを気にしながらの問いにフラッカはその街の子を見つめてにこりと笑います。
「優しいわね。いいのよ。性根を捻れさせるのはわたしじゃなくて悪意を一番先に耳にする人よ。言われたことなんて聞こうが聞くまいがわたしの自由よ」
「だって、フラッカは独り暮らし」
「おかあさまの遺産はお洋服だけじゃないの」
手を伸ばす街の子にフラッカは独り立ち上がり駆けていきます。
「だってひとりぼっちはさびしいしこわいよ?」
フラッカには届かない言葉です。
「ひとりぼっちじゃないわ。わたしは大丈夫」
フラッカは小さな小屋の中で小さなぬいぐるみを抱きしめます。
「今日はね、ちょっぴり心配してくれた優しい子に会ったわ。期待させてそれからヒドいこと言ってくるんだわ。わかってるからもう会わない。そしたら、記憶の中では優しいままよ」
歌うようにぬいぐるみに話しながらフラッカは家事をこなします。
七日に一度、フラッカが出かけている時に届く食料があります。
送ってきているのがおかあさまのおかあさまだとフラッカは知っています。
会ったことのないおばあさまはフラッカが学べるように本を月に一度送ってきます。
読めない文字を教えてくれるのはぬいぐるみでした。
フラッカは食品にまじるぬいぐるみのごはんを見つけます。
「大好きよ。せめて、君の前では素直になりたいけど、いつか、無理になるのかしら?」
問題なく文字が読めるようになればおばあさまはきっとぬいぐるみのごはんを送ってはくれなくなるとフラッカは思っていました。
ある時、街に悪いことが重なりました。
病気に不作です。
街はずれのフラッカは何も困っていないようでした。
フラッカが街で何も買ったりしていないことを街の人たちは気持ちよく忘れます。
フラッカは小さなぬいぐるみに囁きます。
「だいじょうぶ」
「フラッカ、フラッカ!」
見知らぬ街の少女は貧相なやせっぽっちでフラッカが閉じ込められた部屋のドアを開けようと暴れています。
「うるさいわ。コレあげるからやめなさい」
隙間から押し出されてきたぬいぐるみを少女は受け取りました。
「どうして、逃げなきゃ逃げなきゃダメなのに!」
「優しいわね。いいのよ。逃げられないから。ああ、貴女はどうか遠くへ行くか、お部屋で何も聞かないでいなさいね。……お友だちをよろしくね」
街の少女は受け取ったぬいぐるみを握りしめて街を出ました。
一人は苦しくていつしか友人とそして夫に出会います。
故郷の話は家を訪ねてきた老女がしてくれました。
街は焼けおちたと。
「孫のお友だちを連れてきてくれてありがとう」
今日のお題は【せめて君の前では素直になりたいけれど】です。
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