過ぎる夏
使用お題ひとつ
祖母の住んでいた場所は山深い田舎でお墓だって敷地内にあった。
朝顔の蔓が絡むうさぎや鶏の詰め込まれていた小屋を過ぎ、土をついばむチャボを眺めながら長くもない道を行く。
青々している雑草に人が歩いた証の砂利の多い土の道。
最低限の手入れしかないのは人手が足りないせい。だからってたまに来てなにかが出来るわけでもない。
木陰落ちるこじんまりした場所には苔がついてそうな積んだ石がふたつみつ。端の崩れかけた墓石。そしてまだ真新しい墓石が並ぶ。
「久しぶり」
軽く手を合わせてから近況をぽつりぽつり伝えていく。
いつだって、きっともう来ないと思いながら言葉をこぼしていく。
私の家ではないこの場所だけど、幼い私には故郷だと印象付けるには十分な時間。
赤茶色の牛の大きさに怯え、うさぎの小ささに驚いて、鶏に襲われながら卵を奪う。
金網の小屋。悠々と歩く孔雀。池で跳ねるはフナか鯉。もぎ取る玉蜀黍に大きなピーマン。ジャンプしても届かない向日葵。
夏祭りのクジ引きで手に入れたのは牛の木像。
黒々した天狗のお面が玄関を見守っていた。
セミの声を聞きながら亡き祖母を思い出す。
木々の多い山の夜は肌涼しくもひと気がない。
空は煌々ときらめく星で埋め尽くされるのに。
きっと、もう訪れることはないのだろう。
知る人の減った場所は居心地が良いとはいえず、気兼ねばかり募るのだから。
私をつくってくれた場所。
それでも、私の居場所じゃない場所。
「だからってここも違うんだよねー」
「は!? 海来たいっつったんお前だろ!?」
「うん。ありがと」
そこそこに付き合いの長い奴は仕方なさそうに笑って海の家で買ってきた昼食を差し出してくる。
「ありがと」
「で、何が違うんだよ」
奴の疑問に私は苦笑い。
話しても仕方ないでしょうって答えれば拗ねるのがわかってる。
「故郷はもう、私の居場所がないなぁって、私の居場所ってどこだろうね」
困るでしょ。こんなこと言われても。
「ばっかだろ」
バカはないんじゃない?
バカは!
「お前の居場所なんか俺の横でいいだろ」
奴を見れば顔をそらしていて、ズルい。
「……ばか」
とにあさんへのお題
・お墓参り
・夏祭り
・お面
・朝顔
・海の家
#夏っぽいお題
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