格差交錯
「あら。帽子がお散歩にいってしまったわ」
こてんと首を傾げる少女が風に飛ばされる帽子をただ見送る。
「どうしましょう。日に焼けてしまうとメリッサに叱られてしまうわね」
「ざっけんなぁ! 小娘が公共の場を汚してんじゃねぇえ!」
唐突に手元に突きつけられたものを少女は見下ろす。
ぱぁっと、花がほころぶかのような笑顔が広がる。
「わたくしの帽子ですわ! ありがとうございます」
帽子を掴んで少女は微笑む。そこにいたのは長身の青年。キツイ眼差しで睨みつけられても笑っている少女に毒気を抜かれていた。
「お、おう。落とすんじゃねぇよ」
青年の言葉に少女はにこりと笑う。
「はい! お手数をかけてしまい申し訳ありませんでした」
ぺこりと頭を下げられ青年は困惑する。
さらさらと揺れる少女の髪に見惚れる。
「わ、わかりゃあいいんだよ。わかりゃあ。今後気をつけな!」
吐き捨てて踵を返す。
「ここはどこかしら?」
青い空を見上げた少女の呟きに青年は不安にかられる。
このまま放っておけば良かったはずだが、彼の中にはその選択肢が転がっていなかったのだ。
強引に手を引いて道を歩く。
少女は片手で帽子を抑え、笑う。
「ありがとうございます」
小鳥のさえずりのように少女はさえずる。
青年はそこからいくべき場所を聴き取る。
使用人の少女を見つけた時、少女は残念そうに吐息をこぼす。
「また、お会いしたいですわ」
青年はやめてくれとぼやく。
振り回されて気づかれした時間だった。
頭を下げ、手を振り名残を惜しむ少女。踵を返し道をたがえた青年は小さく呟く。聞こえるはずがないほどの細やかさで。
「またな」
天然お嬢とオカン属性のヤクザ