夏祭り
使用お題ひとつ
夏祭りに出掛ける準備で子供らがはしゃいでいる。
手伝いも夜ふかし用の昼寝も済ませ、麩菓子を頬張りながら夜店で使える小遣いを確認している。
盆に乗せられた茄子や胡瓜の牛馬を倒さないように縁側に転がっている。
「かき氷だろー」
「はしまききてるかな」
「フランクフルトはおっきいやつかなぁ」
「くいもんはふたつだぞー」
少し年長の子供が声をかければ不満そうな声がかえる。
「おなかこわすだろ!」
実感のこもった忠告は毎年綺麗に破られる。
子供たちは楽しげに瞳をキラキラ輝かせている。
なんて、なんと愛おしい。
祭りの店は様変わりしていく。
甘酒と団子。持ち合った野菜、そして汁物をふるまったはじまり。
今ではいくつもの屋台が並びにぎやかしく華やかだ。
渦まく欲はもう少し薄ければいいのに。
「人の心は既に神より離れているのですわ」
「まだだ。まだだよ。あの子たちはまだだ」
信じたい。
会いたい。
心が遠い。
盆の上に砂糖菓子の花が咲く。
夏祭りの音楽が流れてくる。
縁側に子供たちははしゃいでいない。
「ぼっろいな!」
「こーら。久しぶりに来たからなぁ」
子供が帰ってきた。
「掃除するぞ!」
「えー」
そう。嫌がるのだ。自由でいたい子供たちははしゃいで楽しげに逃げて笑うのだ。
盆に砂糖菓子の花が咲く。横に茄子や胡瓜の牛馬が不恰好に置かれる。
「刺し直し禁止だからな」
「じゃあ、親父がやれば?」
「十三歳以下の子供の仕事なんだよ」
「なんでだよ。誰がやっても一緒だろ」
不満そうな声が懐かしくて笑みがこぼれる。
「神様の乗り物だからな」
「死んだご先祖の乗り物じゃないの?」
「それは家のな。ここのは違うんだ」
あまり上手に安定を取れない牛馬を見ながらゆっくり体をほぐす。
「この里に祝福をもたらしてくれた神様が里帰りするための乗り物だと言われていて、ちゃんと帰ってこれる乗り物である必要があるんだよ」
子供が滞在する間、喜んで欲しくてそっとセミを転がしたり、甲虫を寄せてみたり。
この子供は変わっていてその度に悲鳴をあげて放り投げる。
虹を呼んでも気がつかない。
うつらうつらする子供を扇いでやれば、嬉しげに笑った。
我らは人の心がなければ留まれない。
「人の心は離れているでしょう。このままでは鬼になります」
友の声に笑う。
チノ者がこの地にいるならばここにいるべきだ。
「お前は還れ」
高き天の主人の元へ。
「いいえ。還る時は共に。我らは競いあえど、共に天よりの使いとしてこの地に降りたのですから」
書く小説のお題は、『夏祭り』『ライバル』『天使』です。
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