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自縄遊戯  作者: とにあ
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蝶が舞う街

使用お題ふたつ

 


 明るいパステルタッチの街の人々はうっすら曇ってきた空を不安そうに見上げています。

 賑やかしく広げていた商品をまとめて店じまいの準備でしょうか。


「あんた、旅人さんだね。早く、宿におゆき。あめがふってくるよ」


 不思議そうに様子を見ていた旅人に気がついた屋台の人が声をかけます。

 その声に気がついたのか、他の店の人も次々と宿を勧めてきました。

 よくわからない様子を見せる旅人に街の人たちは宿の立ち並ぶ方向を指さします。


「宿は酒場で繋がってるから宿代は店で聞きゃあいいさ」


 急げと急かされて旅人は不思議に思いつつも宿に急ぎました。

 酒場のドアをくぐると後ろで重い物が硬いものにあたる『ボッ』とか『ガッ』という音が聞こえてきました。


「いらっしゃい。旅人さん。あめにあたる前にようこそ」


 外からはガンガンドツドツ重い音が響いてきます。

 振り返った旅人の目に映った光景は、キラキラしたなにかが空から落ちてくる光景でした。


「旅人さん部屋はどうするね?」


 宿の人が聞いてきます。旅人は「一番安い部屋で」と重い物の降る外をぼうぜんと見つめます。

 なにが落ちてるのかわからなくても地面にぼこぼこ穴が開いていくのですから。

 外を歩いていたらと思うとゾッとします。

 ブルリと身を震わせた旅人に宿の人は慣れた様子で笑います。


「最上階の個室ですよ。こっちです」


 最上階の個室と言う言葉に旅人は頭を振ります。


「一番安い部屋ですよね」


「一番安い部屋ですよ。あめがふる日はうるさいので隣のいびきも気になりませんよ。鍵はないですが、あめが入り込んできた時用の金属板はあるんで自衛してくださいね」


 どうやらうるさくて危険を伴うということが安い理由のようでした。

 納得した旅人は店の人の後ろについて気恥ずかしいピンクの階段を上がっていきます。

 小さな部屋でほとんどベッドだけで埋まった部屋には部屋と同じサイズじゃないかと思うような鉄板が吊るされていました。

 驚く旅人に宿の人は紐を引いて鉄板を傾けます。


「もし、天井からあめが入りこんだ時は鉄板を斜めにしてから酒場の方に来てくださいね。屋根をなおしますから」


 鉄板を斜めにすることであめがその受け皿に入り、階下まで続く樋に流れていくのだと教わった旅人はじっと樋の受け皿を見つめました。


「味見は止めませんよ。ではごゆっくり」


 鉄板の下のベッドという状況はとても圧迫感があり、旅人の心を重くしました。


「この街には薬があるって聞いたのにな」


 旅人がフトコロから出したのはてのひらに包み込むには大きい瓶でした。

 きゅりっと蓋を捻れば小さな窓が開き軽やかに蝶が舞いました。


『甘いにおいがするわ。お薬を手に入れたらまた戦闘生活に戻るの?』


 蝶がひらひら舞い尋ねてきます。

 旅人は頭を振り、戦闘を否定します。


「平和が一番いいよ。この街が平和な気はしないけどね」


 旅人は天井を見上げます。

 天井や壁からはひっきりなし止むことは知らないとばかりに打撃音が響いていました。

 こんな音を立てている物が人に当たれば大変でしょう。街の人々が宿を勧めた理由も理解できます。

 蝶は旅人の指に留まるとゆるゆる翅を揺らしながらその血を吸い上げていきます。


『糖度が低いわ。早くお薬を見つけなさいよね』


 コンッと旅人は咳き込みます。

 その手に開く赤い花。

 旅人はその辺りに投げ捨てると蝶を瓶に戻しました。


『置いていくの!? 鉄板が落ちてきたらどうするのよ!』


 叫ぶ蝶の言葉を旅人は無視しました。

 蝶の言葉は旅人にしか聞こえないのです。

 酒場は楽しげな音楽や踊り子博打打ちたちの喧騒に包まれています。

 旅人はカウンターの空いた席に近寄っていきます。


「おお、コッチ空いてっぞ」


 手招いてくれたのは露店の人でした。

 旅人は席に座った途端に街の外の話をねだられます。

 街道むこうの草原の話。森に潜む妖魔の話。山むこうの土地でおこなわれている戦争の話。

 旅人の話の引き出しはたくさんありました。

 平和な街の人々は街の平和に感謝しながら旅人を労わります。

 この街には他所者にも優しくふるまえる余裕をもたらす平和がありました。

 大昔のワガママな魔法使いがこの街には居たのです。


「ああ、そろそろあめが止む。なかなか見られない景色だから、ぜひ見てくれ!」


 キラキラと光沢を放つ落下物の正体は宝石のようにも見えました。


「朝には溶けちまうけどな」


 ヒョイと一欠片拾った露店主は躊躇うことなく口に放り込みます。旅人は差し出されたカケラを眺めてから、おそるおそる口に含みました。

 ころりと石のような硬さが舌の熱でじわりと甘さをこぼしながら溢れてきます。


「飴……?」


「ああ、この街はあめの街。甘党の大魔法使いが悪戯に降る雨を飴に変えちまったキャンディの街さ。花吐き病の戦士が最後に辿り着く街さ。あんたは戻るのかい」


「蝶がいるんだ」


 旅人の言葉に露店主はそうかと呟きます。

 旅人は月に照らされる飴だらけの街を見つめます。

 この街には争いは似合わないと思わせる不思議な光景でした。

 月を過ぎる影は蝶でしょう。

 旅人はただ月を見上げ花を足元に散らして立ち尽くすだけでした。


与えられたお題は

「花吐き病」「戦闘」「蝶」

です。頑張って混ぜてください。

#3つのお題で創作

https://shindanmaker.com/716352

辿り着いた街は…

「飴の街」なぜか雨でなく飴が降る街。昔々甘党の大魔術師が雨の代わりに飴が降る魔法をかけたという伝説がある。家も人も街中がポップな感じ。

https://shindanmaker.com/423700


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