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自縄遊戯  作者: とにあ
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共に歩く人

使用お題ふたつ

 あの方の後ろ姿しか思い出せない。


「この国はない。我が国だ。我が国の幼子を保護するは当たり前なんだよ。ガキは守るもんだ。俺が見える範囲だけでもな!」


 そう言い放ち、敗戦国の王族の子供を連れて行軍を続ける。そんなあの方に周りはいつだって振り回される。連れて行かなければ、亡国に利用されるか、ひっそりと処刑されるだろう子供たち。

 あの方は振り返らない。

 ただ走り振り回す。

 自分に牙を剥くことは許すのだ。

 それ以外に牙を剥けば許さないのだ。

 幼子を断罪しなくてはならぬ時のあの方の陰りを私は、我らは知っている。

 牙を剥く他国を恐れる王のため、我らが主人たる方はただ戦う。

 私の他にもかの君に心酔する者は増えていく。

 ただ純粋に武の強さに魅せられる者。争いを終結させるためと戦う心に魅せられた者。あまりにも拙い対処に見ていられなくなった者。救い主として信仰する者。

 だから、あの方よりも我らが許せなかった。

 愛され、信じられていた弟による簒奪が。

 よりにもよって民を搾取する在り方が。

 迷われたろう。

 悲しまれたろう。

 あの方は王になる道を選ばれた。

 私の進言は退けられた。


「俺は暴君で王となった弟を弑した。暴君であれど、国を割る訳にはいかねぇ。俺が望むのは大きな争いの起きない世界だ。守るべき子供を利用だってするさ。血統の後継は必要だ」


 貴族達を無闇やたらに排することができない力不足が口惜しかった。

 だから、私は王子に繰り返し「死ぬべきを生かされた恩に報いよ」と言いきかせた。

 世嗣ぎの王子はそう言いきかせる私をじっと見上げていた。

 そう、泣きもせずただ私を見上げていた。

 我が王はいつだって城を飛び出して自由にふるまう。

 供として侍るのは亡国の血筋の子供ら。

 私は我が王が害される恐怖から逃れられない。


「父上は大丈夫ですよ。みんな父上が大好きなのですから」


 穏やかに微笑む世嗣ぎの王子は我が王のような覇気を持たぬ凪の者。


「なぜ、父上に妃をと動かれなかったのです?」


 言外に「貴女とか」と囁かれた気がした。

 陛下が、望まれなかったからだと答えたかったのに声が喉の奥にはりついたように息苦しい。

 幼子であった王も見ていた。

 いつからだろう。

 私は陛下の後ろ姿しか記憶していない。

 どこまでもどこまでも先をゆく我が王はその横に並び立つべき妃を思い浮かばせない。

 そうだ。きっと、どのような娘が立とうが「不釣り合いだ」と私は排そうとしただろう。

 そんな浅ましく薄汚い思いに囚われる私など、陰にしか居場所はないに決まっている。

 そんな中、王の姫が見出された。

 世嗣ぎの王子より僅か年かさだが、悪くはないだろう。


「あたしはお貴族様になんてならないよ」


「姉上様が心配なさることはありませんよ。ちゃんと自由に過ごせるよう差配させていただきますので」


 世嗣ぎの王子は和やかに穏やかに語っている。

 私は嫉妬している。

 我が王の心奪いし女に。

 我が王を生かし置き去りにして逝った女に。


「私は父上のあとを継ぎ、争いの起きにくい世界をつくりたい。父上に導かれた兄弟達が力を貸してくださるからこそ不可能ではないと考えています。ですが、どうか、私のそばで力を貸してください。私には貴女が必要なのです」


 世嗣ぎの王子の言葉に王子を見上げる。

 私が、この国にたどり着き友を得て見守ってきて幾年、幾世代が過ぎただろう。

 簒奪者の息子とて彼もまた友の血を受け継ぐのだ。

 そっと握られた手はひやりと冷たい。


「私には、貴女が必要なのです。私の妃になってくださいますか?」


 私はとられている手を見つめる。

 意味が、わからない。

 王子に好意を寄せられる覚えはカケラもない。

 見上げれば王子はニコニコと笑っている。きっと私は不可解げな表情だろうに。


「貴女が、必要なのです」


 おいて、おいていくのに?

 私のそばで笑っていてはくれないのに?

 おいていかれてしまうのに?


「貴方はいずれ私を置いていく。一人老いる心にお前は耐えられない」


 わかってる。大丈夫と笑う彼らは誰も耐えられなかった。私を憎みながらおいていった。

 同じ想いをしろと言うのか。


「かも知れません」


 認めながらその笑顔は翳らない。


「それでも、私は貴女が私を嫌いだと断じることなく、妃となった後を思ってくださった。私にとってそれがどれほど嬉しいことかわからないでいてくださいね」


 顔に熱が集まる。

 穏やかで和やかな凪の海のように何ひとつ覇気を示さない王子ごときに心散らされる理由がわからない。


「私にお前など必要ではないのだからな」


 見ていられなくて視線を外す。


「はい。私には貴女が必要なのです」





『武力制圧者の生きる道』の設定に

お題は『後ろ姿しか思い出せない』です。

shindanmaker.com/392860

とフォロワーさんから頂いた『ツンデレ』と言うお題を使っております。


協力ありがとうございます!

ところでツンデレになってるんだろうか?(不安

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