ガラス越しの花
使用お題四つ
「君との時間が愛おしいんだ」
男の言葉に少女は頬を染める。
少女はそっと男の指先に自らの指を絡める。
「わたしも、あなたの体温を感じてるの、好き……」
うつむき耳の先まで熱を含ませた少女を男は嬉しげに見下ろしている。
「また、会えるかな」
男の言葉に少女は顔をあげて微笑む。
「きっと」
「別れを随分惜しんでいたね。おとせそうかい?君は詰めが甘いんだからね」
ガラス越しに届けた言葉に君は肩を震わせる。
「無理よ。きっとバレてしまうわ」
動揺している君に私の動揺は震えは届かない。届いてはいけないんだけどね。
怯えている君を追い詰めるように間を置く。そうすることで私もまた落ち着くから。
「ねぇ」
声をかければビクリと肩が揺れる。
「君に選択権はある?」
家に居場所のなかった君に居場所を与えたのは私。
君が自分の体を抱き締めてしゃがみこむ。
まるで私が虐めているかのようだ。
「彼が好きになれない?」
問えば、君はへたり込んだまま長い髪を振り回す。目眩を起こすんじゃないかと心配になる。
「私も幼馴染みの中では彼が一番アタリだと思ってる」
特別の好きはないけどね。
「……好き、なの?」
「幼馴染みの中ではね」
「でも、アレはゲームのシナリオでしょう?」
そう、ゲームだ。
でも、彼はプレイヤーだ。
君はよくわかっていない。その姿がかわいい。
どれほど触れたくても触れたその感触は電子ノイズに過ぎない。柔らかく感じるのもしっとりした手汗を愛おしいと感じるのも脳の錯覚に過ぎない。
「ああ、時間だよ。私のかわりに学校に行ってくれるんだろう?」
君は時計を見ると慌てて駆け出す。
チラリチラリと此方を伺いながら。
「きっと、みんなにバレるわ。うまくいくなんて思えない」
出しなに君がそう言うから、つい笑ってしまう。
「バレてしまうまで私のフリをして」
バレっこないから。
私は彼女を見送ると冷たいキーボードに指をのせる。
いじめられてた君はみんなの記憶から消した。
からめとるように引きこんで一週間。
みんな、流行りのゲームをプレイしてるの。
一週間。
私たちは学校に行くことなく、二人の時間を過ごした。
校内であなたを意識していた人は私以外いないし、私自身を見てたような人もいない。
きっとね、少し錯覚させれば人は忘れてしまうから、そこに上書きしていくの。
本当のあなたを覚えているのは私だけ。
本当の私が死んでいくのを見守るのもあなただけ。
私が死んだら好きにしたらいい。
自由をあげる。
今ですら私の手はあなたに触れることはできない。
お題は〔硝子越しに〕です。
〔地の文のみ禁止〕かつ〔手触りの描写必須〕で書いてみましょう。
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「早朝のホテル」で登場人物が「手を繋ぐ」、「手」という単語を使ったお話を考えて下さい。
#rendai
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二人とも高校生の設定で同居して暮らし始めた、漫画または小説を書きます。
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切ないシチュエーション
『涙を堪えるように あなたに 「君は詰めが甘いんだから」 と言いました。』
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