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不疎通

使用お題ひとつ

「私は忘れてしまったあの人をずっと待ち続けているの」

　ショールを揺らめかせて被写体は笑う。

　忘れた相手を待ち続ける心理は理解できないけれど、彼女にとってそれが必要だというのなら、不利益をこうむらない限りは好きにしていればいい。

　窓の外をじっと見る憂えた表情や差し込む光をスポットライトに見立てた仕草。

　風の音で一喜一憂する表情。

「私はここで待っていていいの？」

　カメラを降ろしてレンズを通さぬ君を見る。

「君の居場所はここだろう？」

　私は君のいる光景を撮り続ける。

「あなたって、わからない」

　私は君の待ち人ではない。待ち人に成り代わることもできないだろう。

　それでも、君が私の被写体である限り私に不利益などありはしない。

　君と私の間で細やかな意思の疎通は存在しないけれど、君はここにいればよくて、私は君を撮れればそれでいい。

　ここは君の待つ場所。

　ここは君の歌う場所。

　ここは私が君を映す場所。

　猫に憑いた君をここから出す気なんてないんだ。

大切な人をずっと待っている歌手と頭が良すぎて普通の人からは理解されない写真家の、日常の話書いて～。

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