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自縄遊戯  作者: とにあ
257/419

私の魔女

使用お題ひとつ

 ヒラリヒラリと舞い踊る鰭。

 赤やオレンジ金色にひらめく長い鰭。

 美しいと褒めてくれた人は今いない。

 ぐるんぐるん青の中を踊る。

 私を創りたるは人であり、それ故に私は人に添うことを好む。

 人の言葉を操り姿を人に近く見せる。

 それ故に私の食への渇望もまた調整されたものと言える。

 水の内にたゆたう微生物は吸収出来ず、ただ飢えを強烈に引き起こす。

 不満だ。

 私が受けつける、美味しいと感じれるのは死後十二時間を経た肉だろう。

 狩ったばかりの生きた肉の不味さ。

 他の肉喰いたちに奪われぬよう少なくともそれ以上の時間守らなければならない。なんて不便。

 幼い頃は私を創った人が食べ物をくれたものだった。でも、その人はいない今、私は自ら用意する。

 そう、いない。

 あの人はいない。

 ならば私は自らが心添わせる相手を自ら選ぶ。

 言葉を操り、創造者に近しい姿をもとうと私には等しく肉である。

 私が食す肉と化す前で、なおかつ私を恐れないものでなくてはいけない。

 私は生きることを自らに課す。

 いつか創造者が戻ってきた時に成長した自らを見てもらうために。

 きっと育ち成長を果たした私を褒めてくれるはずなのだ。

『馬鹿だなぁ。しかたないなぁ』と口ずさみながら、きっと、撫でてくれるだろう。

 今、私の鰭の隙間に眠る少女は生きている。

 幼体からここまで育った。

 私は人を、創造者と近しいカタチの生き物をも育てることが可能なほどに成長したのだ。

 幼体だった少女は私をおそれた人が『クモツ』として贈ってくれたものだった。

 幼い少女は私をおびえずただ生きるために泣いた。

 私はその命を育てると決めた。

 いつかは群れに帰るだろうがそれまでは育てると。

 少女を『クモツ』としてよこした場所では時おり肉を用意してくれた。

 その地は私の餌場となった。

 少女は陸を好む。

 私は時おり少女を陸にやる。

 幼い少女をみてくれる人々は私をおそれない。

 私は彼らに好意を寄せる。

 彼は警戒ひとつなく笑って私に触れて賞賛をくれる。

 彼を害そうとするを許す気はなかった。たとえ、都合の良い餌場を失おうと。

 育てている少女もしっかり私の後援をしてくれる。

 少女はいつしか私の食事を支度するようになった。

 その量は極々僅かに過ぎないが楽は確かだった。

 少女はいつしか女となり、いつの頃からか魔女と呼ばれる。

 悪しき魔女。

 人にとって最悪の災厄の運び手。

 その呼び名を聞いて少女は笑う。

「私は私をあなたに捧げた人達をみならって、あなたの飢えを満たせるように捧げているだけなのにね。あなたは私に飢えを与えなかった。だから、私もあなたに飢えて欲しくないわ」

 ヒラリヒラリ鰭を泳がす。

 かつての少女はその軌跡を嬉しげに見送るのだ。

 生きる時が尽きるまでは、共にあろう。

お題は〔最悪〕です。

〔句読点以外の記号禁止〕かつ〔「女性」の描写必須〕で書いてみましょう。

https://shindanmaker.com/467090


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