花園
使用お題ひとつ
浮かれ気分で自分の席で読書に耽る友人に抱きつく。
「おっはよー」
茉莉花ちゃんは三つ編み眼鏡の文学少女。
「おはよう。ナズナ。相変わらずちっちゃいわ」
ぐりぐりと頭をなでられる。
いつもなら身長が縮むと抵抗するけど、今日はおおらかな気持ちで許す。
「……なにか、悪い物でも食べた?」
気味悪いとばかりの態度でススッと距離をつくられてイラっとする。
「失礼だなぁ。気分良いから許すけどー」
「……ふぅん。そう」
しばらく沈黙。
負けたのは私だ。
「なんで何も聞かないのよぅううううう」
教室に入ってきたクラスメイトの視線は基本私たちを素通りしていく。
「騒がないでよ。ナズナの機嫌が良いなんて自販機で当たりが出たとか、朝道にかわいい猫がいたとか、座敷童子仲間か、河童仲間に出会ったから、くらいでしょ?」
わかってるとばかりに言われて私はブーたれる。
「私、人間。妖怪ない!」
声もなく含み笑いする茉莉花ちゃんはいじめっ子だと思う。
「それで、どうしたの?」
「えっとね、あのね、恋人、できちゃった。んだよ」
そっと耳打ちした。
茉莉花ちゃんはそれでも冷静で、どうやったら驚くのか不思議に思う。
「どこの中学生。それとも小学生?」
ぽかぽかアタックしようとしたら阻まれた。
茉莉花ちゃんは学年女子の中でも身長が高い方だからなぁ。
「ちっちゃくないもん。学年で私よりちっちゃな子は四人はいるもん!」
周りの級友がなまぬるい視線をくれる。
「ナッちゃん、チビッコフレンド増えたんだ?」
そーゆー声に「違うから!」とだけ答えておく。
「年上の人だよ」
「ロリ?」
「違うってば、それに私高校生だし」
「未来の合法ロリ?」
茉莉花ちゃんヒドイ。
「やさしいひと、やましいひと、やらしいひと、さぁどのタイプ?」
「やさしいひとだよ」
すごくやさしい。
でも彼ならやましくても、やらしくてもギャップ萌えで良いかもしれない。
きっとやましいことくらいたくさんしてそうで、それはそれだけ闇を知ってるってことで。
自分を自分としてあろうとする彼が厭らしく感じることがあるとしたら、それは私が厭な人間なだけだ。
「すごく優しくてすごくかっこいいんだぁ」
「……2次元彼氏か……」
茉莉花ちゃん、ヒドイ。
やさしいひと、やましいひと、やらしいひと(私のすきなひとのこと)
彼はやさしい。
いつも笑顔で、かなしくなるくらいの笑顔。
彼にはやましいことなんてないだろうな。
自分の行動に後悔なんてないように迷いなく生きようとしているから。
なにかにやましい気持ちがあってそわそわしてたら、うん、想像してみたらドキドキしてきた。実際みたら絶対心臓止まっちゃう。
やらしい?
え?
エロい?
目元にキスされたのを思い出して思考停止しちゃう。
「ナズナっ」
ハッとする。
「トリプらないの。大丈夫な人なんでしょうね。ナズナ騙されやすそうで心配だわ」
茉莉花ちゃん、優しい!
「その時は心肺停止で悩みも」
「続けたら怒るわよ。ナズナ」
「ごめんなさい。うん、アキラさんも怒る。気をつけないとね」
「いや、うっとり表情で言わないで。本当に恋人できたの?」
小声で囁かれて私は頷く。
「だから、最近付き合い悪かったのね」
それは魔法少女してたからです。なんていうのは秘密で言えない。
ああ、秘密増えちゃったなぁ。
「ごめん」
「いいわよ。付き合いの幅が広がることはいいと思うし。相談ごと、いつでも聞くからね」
茉莉花ちゃん……優しい。
「絆なんてね、 解けてしまわないように堅く結んでは傷つけてたってあとで気がつくと手遅れ感半端ないから気をつけないとね」
茉莉花ちゃん、コワイ。
「茉莉花ちゃん、大好き」
「ナズナはおバカね」
撫でてくれる姿は保護者ちっく。
「だって、好きってことはちゃんと伝えたいもん」
桜舞う入学式。
桜の乱舞に見惚れてた私を引っ張ってくれた茉莉花ちゃん。
唇に花びらがついてると言って世話を焼いてくれた。
意地悪も言う。そっけないとこもある。それでも茉莉花ちゃんは変わらない。
「茉莉花ちゃん、大好き。今度、アキラさん紹介するね」
「……、いらない」
「えーー、茉莉花ちゃんいじわるーーー」
お題
唇に花びら / やさしいひと、やましいひと、やらしいひと(あたしのすきなひとのこと) / 解けてしまわないように堅く結んでは傷つけてた
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