奇跡の種
使用お題みっつ
ふんわりと彼は笑っている。
赤い炎の中に立つ彼はとても神々しくて人ではない生き物のように見える。
「悪魔め」
そう彼をののしる人を私は見ていた。
ののしった人は『奇跡の種』を回収する異世界の魔法使い。
彼らは直接この世界に干渉できない。
だから、魔法少女にならないかと私に声をかけてきた。
『奇跡の種』はいろんなところで発芽してトラブルを引き起こしていたから、それを回収するのは正しいことに思えてた。
それにちょっぴり退屈していた私にはちょうどいい刺激だったんだ。
魔法少女になったことで退屈な日常にピリオドが打てた。
異世界の魔法使いはこうるさいけど、非日常が楽しかったし、多くのトラブルを知られずに取り除いていく私はひっそり優越感だった。
それでもそれすら日常に変わった。彼に出会うまで、恋に落ちるあの日までは。
「力があれば使うものだと思うよ」
彼が笑う。
「それはヒトの持つものではない!」
魔法使いの言葉に彼は銀色の髪を揺らめかせた。
「だって、私は悪魔なんだろう?」
自らを悪魔だと認めながら笑う姿がとても冷たくて心が痛かった。
赤く熱い火を操るあなたは銀色の髪に凍てつくような薄い空色の青い瞳。
きっと、私はその美しい外見に魅せられた。
あなたの瞳にうつりたかった。
どうせ叶わない恋ならば、せめてあなたの瞳に感情を躍らせるくらいしたくって。
「あなたは、人だわ!」
あなたの視線が興味なさげに私を映す。
「君が興味があるのは私の力だろう?」
悪魔の方が都合がいいんじゃないかと含ませているかのような言葉に私の心が軋む。
人を傷つけるのはこわい。
自分が、傷つくことを恐れているんだ。
弱い、弱い自分がここにいる。
あなたを前にするとどこまでも弱い自分が見えてきて痛い。
「もし、私に興味があると言うのなら、私の手を取って世界を破壊しつくしてくれるのかな?」
彼はできるはずもないことを楽しそうにそれでも感情の色を持たぬままに言い放つ。
「私はこの世界が好き。両親や友達、まちの人たちを守りたい」
私の世界が狭いなんて知っている。
それでも手の届く範囲くらい守りたい。
ちがう。
滅んでほしいなんて思えないんだ。
だって、私にとって優しい世界だから。
私は私が守られている世界が守りたいんだ。
こわい。
「それでも、私はあなたを知りたい」
どうして世界を壊したいと思うのか、あなたの笑顔はどうして冷たいのか。
あなたを見ていると、どうして目頭が熱くなってくるのか。
怖くて怖くて分からない。
「あなたは悪魔じゃな」
「そいつはすべてを燃やし尽くす悪魔だ! 人すら燃やし尽くすような! 奇跡の種を抱えさせておくわけにはいかない!」
魔法使いの言葉にあなたはやわらかく笑ってる。
ちがう。
おねがい、悪魔であることを望まれてるなんて考えないで。
「そして、自分の手は下さないというわけか」
「奇跡の種を邪悪に使わせるわけにはいかない。さぁ! 希望の星、彼を開放するんだ!」
私は希望の種『希望』を守るステッキを構える。
あなたの瞳はつまらなさそうに私を映す。
映る私は惑い顔。
「私から力を奪うということは私を殺すということだ。奇跡の種はとうに私の命と同化しているのだからね」
あなたの声に言葉に縛られた感情がゆるり動く。
私はステッキを握りなおす。
「私は『希望の星』の魔法少女。私が望むのは希望の未来!」
奇跡の種が、きっとあなたとの希望の未来を描いてくれる!
閃光が私の意識を飛ばした。ここまでの衝撃は初めてで私はただ翻弄されたようだった。
「無茶をする」
あなたの声が近かった。
あなたの声が聞こえる。
それはつまりあなたが死んでいないということで。
希望の奇跡の種はあなたを生かすことを選んだということ。
「泣くな」
だって、あなたが生きてて、私も生きてる。
ぐちゃぐちゃした感情がまとまらなくて抑えが効かない。
「だって、こわかった」
「死んだってよかったんだ」
「いやだよ! だって私はあなたをもっと知りたい、知っていきたい。だって、あなたが好きだから!」
自分の声が耳に届いて、脳に届いて真っ白になる。
どんどんとわけがわからなくなって子供みたいに泣きじゃくる私の顔をあげさせるあなた。
人間離れした綺麗な顔が近くて、私はきちゃなく泣いてる自分が嫌になる。
見ないで見ないで。今絶対ぶさいくだから。
「こわくないのか?」
「こわいに決まってるじゃない! 見てたらわけわかんなくて大好きってしか考えられなくなるんだからあ!」
自制のキカナイ感情が本音をぼろぼろこぼして私の嘆きは激しくなってくる。
そんななか、目元に感じた感触に私の心臓が一拍高鳴って止まる。
「もぅ、死んでもいい」
魔法使いの怒り狂う声が聞こえた気もしたけど、甘く見えたあなたの苦笑が何よりもうれしかった。
「死ぬな。私もお前を知ってみたいから」
耳元で囁かれて、ねぇ。本当に死んでもいい。
その後「悪用しなきゃいいんだろ?」と協力者になってくれた彼は私の恋人になりました!
死にそうです。
「死ぬほど嫌いか?」
「私なんかでいいのかって思うくらい大好き」
「私が好きだなんていうモノ好きはお前ぐらいだ。死ぬなんて言うな」
彼の笑顔も声も砂糖を吐きそうなぐらい甘くて心拍数が上がる。
あ、やっぱり死にそう。
「魔法少女に」「退屈な日常にピリオド」「砂糖を吐きそうなほど甘い」をお題にしたss、または漫画、イラストを描いて(書いて)ください。
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笑顔を絶やさない悪役です。
銀色の髪に空色の目をしています。
炎を起こす不思議な力があります。この力を奪おうとしている人がいます。
あなたは強い決意で悪役をやめようとしています。
#英雄or悪役
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お題は【傷つくことを恐れて / 縛られた感情 / 叶わない恋】です。
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