孤島の雨
使用お題みっつ
小さな社は誰もまいりになどこない場所にひっそりとあった。
崖の中ほどに張り出した岩だなにある亀裂の奥に。
それは幾度かの災害の結果だった。
社の主は荒れる波音に耳を傾けつつゆるり滅びを待つ。
社自体は思いの外頑丈で、神体にかけられた信仰もその想いは消えきっていはしない。
ありがたいことなのだが、と、亀裂へとむかう。
波音に足される音は雨であろうか。
小汚い影が亀裂からむかって来た。
「ふひゃあああああああ」
奇声を発して尻もちをつくソレは人の子だった。
驚き過ぎて反応ができない。
「ぉおおおおおおおお、オッさんなにぃいいいい!?」
「おちつきましょうね」
上から覗き込み、声をかけてみる。
どうやら私が見えているようだ。
アワアワと手をバタつかせながらも視線ははずされない。
泥だらけでずぶ濡れだが、幸いにしてケガはないようだった。
「島の者ですか?」
「あ、アタシは、アタシはっ……シマオサの娘ムイよ!」
気丈に睨みつけてくるけれど、おそれと怯えがその強い瞳に滲んでいる。
顔の泥を拭えば、はるか昔に舞を納めた娘を思い出した。
あの娘は、舞を披露した後に海に身を投げたのだったか。
舞台で舞い歌った娘。
父のわからぬ神子を産んだ娘と崇められ心を病んで身を投げた。
「そうですか」
「そうよ。アンタみたいなよそ者おとうさまがすぐ罰してくださるんだから!」
強く吐き出される言葉には虚勢しかない。
「自分でも、信じていないでしょう」
おそらく、誰も救いには来ない。
睨みつけてくる目尻に溜まる雫は髪から落ちた雨粒ではない。
「うっ、……っあ」
こぼれるのは嗚咽か。
「っうるさい、うるさいアタシはシマオサの娘だ! アタシはっアタシはっ」
なきじゃくる娘をそのままに私は外に意識を飛ばす。外は雨。
荒れ狂う大海。
稲光りが海を島を照らす。
荒れた幸薄い島を照らす。
わだつみの怒りを買ったのだと雷神が歌う。
人の子をここに閉ざし糧を奪うという罰が下されたと。
「ムイ、生き延びたいですか?」
私の問いに娘がドロドロぼろぼろの顔をあげる。
「っい、いきたいよ、でも、ダクタがいなきゃイヤだ。助かるのならダクタをたすけてよ!」
ダクタ?
「ダクタはおまえを救わないだろう?」
ここに向かってくる人影などないのだから。
「バカじゃないの。ダクタはそこに生きていてくれるだけでアタシの救いだし、希望なんだ。ダクタがなにかしてくれるからアタシはダクタが好きなわけじゃないんだ。アンタ、そんな相手もいないんだろう。かわいそうだな」
くしゅんと呼吸を乱す娘。
虚勢はとれ、なぜだか憐れみの眼差しを注がれる。
ああ、人の子は弱いんでしたね。
雨で濡れた体から汚れた水気を取り去り、社の内で休ませる。
私は膝に乗せた娘から病の気を追い出しながらダクタを探す。
見出したダクタは、なんというか、獣だった。
快く頼みを聞き届け雷神が打ち壊した柵から飛び出した獣ダクタは島人を蹴倒していく。
「おまえとダクタを生かしてあげましょうね」
潤んだ瞳、熱に浮かされはじめた脳味噌はどこまで理解しているのだろうか。
どちらにしても忘れさせなどしない。
「そのかわり、その表情、他の男には見せちゃ駄目ですよ」
この孤島の女王に貴女はなるのです。
人の子を生かしておかぬとわだつみが怒るならしばし、私の眷族として生きなさい。
わだつみの怒り解ける日まで。
今日のお題は濡れです。たのしく描きましょう。
https://shindanmaker.com/316233
とにあの今日のお題は『雨の降る孤島の崖で、お互いに驚いている女の子と奉り神』です。
https://shindanmaker.com/134408
レッツオジサマ妄想!
トラウマもちのオジサマが、困った顔で「その表情、他の男には見せちゃ駄目ですよ」と ヒロインに言うシチュで妄想しましょう
#オジサマ妄想お題ったー
shindanmaker.com/643331




