もこもこ、ふかふか
使用お題みっつ
甘い甘い匂いに眠りが醒される。
柑子色の装束で室のうちをゆるりとめぐるムスメ。
「主様は……」
我が嫁は我をわからぬらしかった。
「おまえ、主様のゆくえを知らない?」
嫁は問いつつ答えを期待していないのかふわりとその小さな身体を我が腹にうめる。
「うー、もふもふ」
すんっと甘い声に我はつい沈黙を守る。
「おまえ、主様の御髪と同じ色ね」
ふふっと笑って手で梳いてゆく。
「ふわふわねぇ。待っていてね。きっとどこかにお手入道具があるはず!」
柑子色のぬくもりがふいっと我からはなれてゆく。
人に近くあれば、嫁は笑ってくれただろうか?
獣に近くあり、獣と思うゆえの笑みたるか?
夜は青に三日月。
嫁の薄藍の髪がゆらゆらと泳ぐ。
はずされた簪に櫛。
「この部屋にはないよ」
嫁のうごきが止まり、まじまじと我を見る。
「主、様?」
白蠟のごとく白く青く顔の色を変えゆく嫁。
白粉の鎧なく、心のままに顔に朱をのぼらせる。
「私、失礼を……」
ああ、声を放るではなかったか。
「かまわぬ。そなたは妻であろう」
ふるふると揺れていた肩が震えをとめた。
「違います」
我に嫁いだのではないのか?
心は添えぬとかたるのか?
「私はまだ、妻ではありませぬ。主様は私なぞ取るに足らぬとお思いなのでしょう」
何を言っている?
「私なぞと契ることなぞできぬとお思いなのでしょう?」
薄藍の髪の隙間から覗くまなこは潤みを帯びて。
「我と同衾したではないか」
寄り添い眠っただけだが。
頭のてっぺんから爪先までくちづけを余すことなく落としたぞ?
我に染まれと抱き眠ったぞ?
「契りまぐわってこその夫婦でしょう……」
嫁の目が冷たい。
「壊しそうでなぁ」
人の子は脆いから。
ギロッと嫁に睨まれた!?
「……私なぞでは不足と、そうおっしゃるのですね」
「我は、ミズカネを望む。しばし館にて過ごし待て」
不足なぞない。
ただただ生命として差があるだけだ。
同じ場にあり、同じを食し、はよう我に近づけ。
「私でよろしいのでしょうか」
正しさは見方によって変わるもの。正義は誰も救えない。力とて必要だ。
「我はミズカネを望むぞ」
ぽふりと腹に嫁を包みこむ。
「もこもこ、ふかふか」
とろける嫁の声に嬉しく思う。
「夜は寒い。ぬくく眠れ」
月光が夜の青を引き立てる。
波のように薄藍の髪が我のまなこを楽しませる。
愛おしい妻をいずれ爪先まで愛していこう。
君に、溺れていくよ。
とにあへのお題は〔君に●●れていく〕です。
〔会話文のみ禁止〕かつ〔「青」の描写必須〕で書いてみましょう。
shindanmaker.com/467090
とにあに捧げるお題:『正義は誰も救えない』/『爪先まで愛して』
#odai_feltxxx
shindanmaker.com/538989
とにあさんは
1.もこもこ、ふかふか
2.お暇?お茶でもいかが?
3.ならばころし合おう
4.叶わぬ約束
の中で一番多かったお題を書いてください。
#お題アンケ
shindanmaker.com/601337
1で!




