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自縄遊戯  作者: とにあ
232/419

にぎるさき

使用お題ひとつ

 ぎゅっと拳を握りそうな指先を無理に伸ばす。

 重ねられた衣装の下で見えないだろう指先だけど、みっともないことはなしたくない。

 一歩足を進めれば、耳元でしゃらり簪が音をたてる。

 歩くは輿までのほんの数歩。

 重ねられた衣装と装飾品はまるで枷のように重い。

 家の跡目を継ぐ兄が物言いたげに私を見てる。

『いってまいります』

 声は出さずに腰を軽く下ろす。

 装飾を乱すわけにはいかないのだから。

「よく、つとめてこい」

 揺るがない眼差しが嬉しいけど、恥ずかしい。

 微笑むことも涙がこぼれそうでできない。

 化粧を壊すわけにはいかないから。

 シャリシャリと金属が擦れ鳴く。


 輿は山の洞に造られた堂に置かれ、私は一人になる。

 思い返すここに至るまでの記憶の数々。

 無防備だった幼い頃。

 愛されたかったあの頃。

 いつ、この道を歩いていく決意をしたのだろうか。

 重りのような衣装に圧し潰されぬよう呼吸を整え、前を向く。

「嫁か」

 視線の先には異形の主。

「ミズカネと申します」

 おそろしいと思えぬ私はどこか壊れているのでしょうか。

 異形の妻となれと言い聞かされた私は主様の姿に安堵を覚える。

 粘性な様子も腐敗のさまもありはしない。

「おそろしいか」

「いいえ。不束者ですがお願いいたします」

 この声は主様のために。

 私のこれよりの命は主様のために。

 私の家族は今これより主様のみなのだ。


 ぎゅっと拳を握りそうな指先を無理に伸ばす。

 撫でるように手を伸ばした。

「あにさま」

「手をとるか?」

 跡目を継いだであろう兄の姿は狩り装束。

 主様を狩りに来たと知れる。

 世の常に疎くなるが主様の元にいる難点か。

 兄の言葉。

 私に頷くことなぞできはしない。

「私の家族は主様。あにさまが主様を害そうとなさるなら、私は爪をふるうのみ」

「そうか」

 私は既に人ならぬ者なのでしょう。

「よう言った!」

 兄の口角がクッと上がる。

 主様よりの加護が私を兄の剣戟より身を躱す力を添えてくれる。

「おひとりですか」

 風に乗りつつ兄に問う。

「私には私の役割がある」

 柔らかな兄の声。

『ミズカネ!』

 主様の声に兄の姿がブレた。

「幸せであれ」

 兄の声が耳をうつ。

 すまぬすまぬと主様の謝罪。

 一族の者等に間者の疑惑をもたれていたと、ゆえに兄は来たのだろう。

 幸せにあると信じて。

 疑惑をもたれては煩わしかろうと。

 それはとても、嬉しいけれど、恥ずかしい。

「主様」

「なんだ。ミズカネ」

 疑った者を罰してくれるわと息巻く主様に私は身を寄せて息を吐く。

「私、幸せですわ」


とにあさんは

1.私もあとから行くから

2.嬉しいけど、恥ずかしい

3.穴があったら入りたい

4.この身で償えるなら

の中で一番多かったお題を書いてください。

#お題アンケ

https://shindanmaker.com/601337

2.嬉しいけど、恥ずかしい

でトライしました!


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