表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自縄遊戯  作者: とにあ
212/419

晩冬

使用お題ひとつ

 時は晩冬、古い神社の赤い鳥居をくぐり石階段を見上げる。

 雪の少ない地域ではあるけれど冷えることには変わりない。

 吐き出される息は白く、肌を刺すような風は冷たい。

 石段を上がりながら、滑らぬよう気を配る。古びた手すりはひやりと冷たく錆が浮いている。切れかけた呼吸を整えようと前を見れば鳥居を覆い隠すように森の枝が伸びている。

 たいした距離ではないはずなのにその距離ですらゆく力のない自分がもどかしくも歯がゆい。

 足らぬ体力に気にすることはないと庇われるたびに「ありがとう」と暗い澱が溜まっていく。

 誰かの足枷足手まといにしかなれない自分が口惜しい。

 感謝なぞせずにヤツ当たればいいとは考えられない。悔しいし羨ましいし妬ましい。それでも、友人に健康であることに引け目を感じさせたほうがきっと嫌な気分だ。

 丈夫に産んであげれなくてごめんなさいと母を泣かせることもごめんだ。

 白い息を吐けばきりりと胸が痛い。

 一歩。足をあげる。

 石段が終わる頃には前を見ることもできなくて、じわりと薄暗くなる視界が悔しい。

 吐く息は白く、世界は薄暗い。

 足元にすり寄る感触。白い猫。

「おまえも来てたのかい?」

 にゃぁと鳴いて足の周りをうろつく白い猫はかりかりとズボンの裾をよじ登ろうとひっかく。

「しょうがないね」

 ゆっくりとかがんで猫を抱き上げる。満足げにうるんと喉を鳴らすとどこに行くのとばかりに見上げてくる。

「どこに行くんだと思う?」

 そう、からかいながら足を動かしはじめる。一人でいる時より気持ち足が軽い気がする。

 お社に頭を下げて細い道を辿る。

 ザッと冷たい風が吹いて、猫を庇ったその掌の上。

 風に落ちた花びらひとつ。

 どの枝から落ちたのか。

「春はもうすぐだね」

 にゃぁと猫の返事がくすぐったい。

 何もできない。もどかしいと地中の泥で足掻く気分。

 季節は巡るし、春は芽吹く。

 いつか、いつか、誰かの力になれるだろうか?

 凍てつく冬がいずれ春へと向かうように。



 花がほころぶように。




お題は「晩冬」「神社」「掌の上」です。

https://shindanmaker.com/192905


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ