晩冬
使用お題ひとつ
時は晩冬、古い神社の赤い鳥居をくぐり石階段を見上げる。
雪の少ない地域ではあるけれど冷えることには変わりない。
吐き出される息は白く、肌を刺すような風は冷たい。
石段を上がりながら、滑らぬよう気を配る。古びた手すりはひやりと冷たく錆が浮いている。切れかけた呼吸を整えようと前を見れば鳥居を覆い隠すように森の枝が伸びている。
たいした距離ではないはずなのにその距離ですらゆく力のない自分がもどかしくも歯がゆい。
足らぬ体力に気にすることはないと庇われるたびに「ありがとう」と暗い澱が溜まっていく。
誰かの足枷足手まといにしかなれない自分が口惜しい。
感謝なぞせずにヤツ当たればいいとは考えられない。悔しいし羨ましいし妬ましい。それでも、友人に健康であることに引け目を感じさせたほうがきっと嫌な気分だ。
丈夫に産んであげれなくてごめんなさいと母を泣かせることもごめんだ。
白い息を吐けばきりりと胸が痛い。
一歩。足をあげる。
石段が終わる頃には前を見ることもできなくて、じわりと薄暗くなる視界が悔しい。
吐く息は白く、世界は薄暗い。
足元にすり寄る感触。白い猫。
「おまえも来てたのかい?」
にゃぁと鳴いて足の周りをうろつく白い猫はかりかりとズボンの裾をよじ登ろうとひっかく。
「しょうがないね」
ゆっくりとかがんで猫を抱き上げる。満足げにうるんと喉を鳴らすとどこに行くのとばかりに見上げてくる。
「どこに行くんだと思う?」
そう、からかいながら足を動かしはじめる。一人でいる時より気持ち足が軽い気がする。
お社に頭を下げて細い道を辿る。
ザッと冷たい風が吹いて、猫を庇ったその掌の上。
風に落ちた花びらひとつ。
どの枝から落ちたのか。
「春はもうすぐだね」
にゃぁと猫の返事がくすぐったい。
何もできない。もどかしいと地中の泥で足掻く気分。
季節は巡るし、春は芽吹く。
いつか、いつか、誰かの力になれるだろうか?
凍てつく冬がいずれ春へと向かうように。
花がほころぶように。
お題は「晩冬」「神社」「掌の上」です。
https://shindanmaker.com/192905




