まほろばのとり
使用お題ひとつ
1
黄色の花が咲き誇る。
「素敵でしょ」と君は笑って傘をさす。晴れた青空に黄色の花が咲く。
年上血の繋がらない君は義理の姪っ子。鮮やかに輝く蜂蜜の髪アンジェリーナ、君は僕の初恋。
黄色の花が咲き誇る。
青い髪を揺らして僕らがはしゃいで見ていたカブトムシもどきの昆虫を見事捕獲してみせる君。
「どんな調理がお好みでしょうか?」
食べない!
2
届かない手紙を書き綴る。
雫姫と呼ばれる青い髪の少女は僕の世話役。
くるくると働く姿は微笑ましい。
「不都合はございませんでしょうか?」
ないと答えると微かに膨れるのだけど、きっと無自覚だろうな。
温かい手がそっと首元に添えられる。
「襟が乱れてます」
ココは異世界。
彼女らによって僕らは招かれた。
彼女らの国を護る為に。
任期は二年。帰るもこの世界に居続けることも自由です。と説明された。
この世界に来た時着ていた制服は帰還時まで保管されている。
こちらの服はいろいろな型があり、洋装に慣れた僕らにはいささか不便。
世話役の民族衣装は数枚の一枚布を紐や金具で留める様式。
柔らかな生地は彼女の胸のボリュウムを惜しげもなく強調している。
うん。目の毒だ。
3
後悔はどうしてもやった後から訪れる。
任期の二年ですべき事は結界とやらに魔力を注ぐことだとか。
国はそれなりに広く、僕らは時々集まりつつもそれぞれの世話役に導かれてそれぞれに活動している。
雫姫は小柄で黒目が多めのつぶらな瞳。ほっそり手足に不釣り合いなほどに大きなバスト。
つい目がいく。
「神子様?」
上目遣いに見つめられるとドギマギする。なんでもないと言い訳しつつ指定されたものに触れて「力を送りこむイメージ」を注ぐ。
雫姫の癒しの力を注ぐことでもいいんじゃないかと思うが、ダメらしい。
友人のように攻めの一手を求められたわけでなくて助かった。
「あの、気になられるんでしたら、その……」
触れても良いとばかりに衣装を留める紐金具に手を……。
そんなつもりはなかった!
4
教室に戻った僕らはお互いを確認して数度瞬きをした。
夏期講習の教室。
早めに集まった四人。
「おはよう」と参加者が教室に入ってくる。僕らはお互いに言葉を交わさなかった。
隙間時間に繰り返した予習復習。得難い体験の数々。二年間時を重ねたけれど、肉体時間の経過はゼロ。学力予習は充分に。上の空で聞いていても答えがわかる。
異世界渡航仲間としてその日は一緒に昼飯のパンを齧った。夏休み中でも食堂が無駄に営業していて助かる。
もう、もう駄目だって思ったんだ。
あれ以上長い時間共にいたら、僕はきっと彼女から離れられない。
初恋はアンジェリーナ。
その次の雫姫は異界の姫。
君は可憐な青い鳥。
青い鳥は飛び立つ。
5
小さい頃、無条件に夢を信じたのは何歳までだっただろう。
共に異界から戻った友人たちとはいまだ縁が続く。
それぞれにショックな新体験の多い期間だった。まず、話題に上がるのが巨大カブトムシの調理方法を聞かれた後の僕らパニック。いや、彼女は善意しかなかったけど。
「イセリ」
彼女の名を言葉にのせる。
「ハイ!」
振り返れば、君がいる。
きっと、あの日を忘れない。
君と過ごす日を忘れることなんかできるわけもない。
だから、幻のような今日も忘れない。
幻であったとしても僕は嬉しい。
お題は
1:「黄」「傘」
2:「手紙」「温かい手」
3:「攻めの一手」「後悔」
4:「もう駄目だ」「教室」
5:「あの日を忘れない」「小さい」
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