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自縄遊戯  作者: とにあ
198/419

盲目になれば

お題ひとつ

 1


「好きなんだろ」


 いとこの言葉に読んでた本を投げつける。

 軽々と受け止めて返される本を受け取るが、この澄まし顔の腹黒最低男。駆除されちまえ。


「恋人いるような奴に惚れるなんて、バカだなぁ」


 その口調はバカにしてるけどバカにされてる気はしない色が滲んでる。

 でも、彼に恋人はいない。好きな女の子はいても恋人はいない。こっちの方がタチが悪いけど、気さくに女っ気を出さずに友人として付き合ううちに好きになっていた。それはいつの間にやら友人以上の好きで。

 今更言い出せない。きっかけがあれば変わるのだろうか?


「おまえが告って揺らいだら俺がつけ込める隙ができっだろ?」

「友人を困らせるような真似をする気はない」


 つまらなさそうに視線を逸らしてボールペンを弄ぶいとこ。

 人生なめてるフシのあるヤツになめるなとばかりに訪れた本気だと言う恋は見込み薄く映ったらしい。

 告って強引に押せばいいだろうと言えば、はにかみ、「困らせたくねぇ」ってらしくない発言。


 なめるな。人に玉砕しろって言うならおまえがまず玉砕しろ!




 2


 彼はソーダアイスを齧りながらぼんやりと空を仰ぐ。

 その速度はゆっくりで夏の熱気がアイスを溶かす速度に追いつかない。

 ぼとりと半分以上のアイスがコンクリートに落ちてしまう。濡れティッシュを渡せば慌てて落ちた服や手を拭いていく。慌てて荒い動きがシミをひろげる。

 照れた笑いで小さく「ありがと」とか呟かれるともうちょっと落着けよと軽く文句をつけつつも守りたいこの笑顔をと盲目的に思ってしまう。

 慌てやすいところも、間の悪い不器用なところも、それでも頑張っていく彼を際立たせるスパイスだから。

 この想いはやっぱりどこか盲目的に感じる。ほれた欲目なんだろうな。




 3


「告白された!」


 いとこが浮かれてはしゃいでいた。

 その反面、彼は静かに落ち込んでいた。いつか来る局面と受け止めていても現場に居合わせるハメになるとは思っていなかったんだろう。いつか幼なじみに恋人を紹介される日に怯えていても。


「こっからもうまくいくようの応援してくれよ」


 賄賂とばかりに渡されるソーダアイス。水色のアイスが溶けていく。

 彼と一緒に食べる時はチョコレート。自宅で食べるのはソーダアイス。

 いとこは迷いない笑顔。こちらの不快表情に何故気付かない。気が付いていても黙殺してるのか。

 相手に告白されて調子にのるのはいとこにとって良くなかったんじゃないかと思ってしまう。

 溶けるぞと言う指摘に慌ててアイスを平らげる。




 4


 似合わないのはわかってる。

 ふわりと揺れるスカートも女性らしい浴衣も似合わない。

 いとこが言い出した夏祭りに四人で出掛けよう計画。いとこは浴衣を指定してきた。服装指定してくるな。

 一人洋装普段着の彼は居心地悪そうに視線を泳がせる。いとこが馴れ馴れしく気にするなと笑いかけてじゃれている。

 彼女が袖を引いて笑いかけてくる。


「ちょっと動きにくいけど、いいよね。浴衣」


 はにかむ笑顔が愛らしい。

 お互いに似合うよと褒めあって男共を見る。安心した表情を浮かべてる彼女。

 大事な幼なじみも、好きになった彼氏も、両方と仲良くあれる時間は幸せなんだろうな。欲張りだって嫉妬してる私の心が醜い。

 金魚すくいを上から眺めたり、りんご飴にかき氷フランクフルト気がつくと彼と二人で歩いてた。

 恋人たちは二人きりの時間らしい。


「……女、だったんだなぁ」

「……なんだと思ってたんだよ」


 対象外なのは知っていたけど、しみじみ性別確認するような発言にさすがにずきりと胸がきしむ。


「ダチ」


 ぽつんと言われて性別無縁で友人と思われてた気分になる。それならいいかと思う自分のチョロさに怒りが蘇る。

 石段で自然に手を差し出された。


「慣れないカッコじゃ登りにくいだろ?」

「似合わない、か?」


 言葉にかぶるように空気を切り裂く音。

 闇空に光の華が咲きほこる。

 答えはもらえない、か。


「似合ってるよ」


 そらみみ?

 幻聴?

 本当の声?




 5


 アイスを日常的に食べる季節は過ぎても、まだまだ空気は暑い。

 彼との距離は微妙なバランス。

 女だって意識されたんだろうか?


「なぁ。やっぱりああいう奴がイイのか?」

「は?」

「いや、だってよく一緒にいるだろ?」


 おまえ以外に一緒にいるって、あ。まさかいとこのことか?

 あいついとこ同士だって説明してないのかよ。誤解させて楽しんでるってとこか。相変わらずタチ悪いヤツ。


「あいつはいとこなんだよ。ウチが学校から遠いから学生中はウチに下宿してんだよ」


 ふぅんと興味なさそうな応答。あいつは基本的に夕飯時まで外にいることの方が多いから、遭遇したことはないはずだ。行動範囲違うはず。


「詮索して悪かったな」


 ぽんっと距離が広がった気がしてぎしりぎしりと胸がきしむ。

 なんで、あいつは幸せなクセにこっちの邪魔をしてくるんだろう。あんなヤツいなければいいのに。

 気にしてないよと答えたけれど、信じてもらえたか自信が持てない。


「オレは恋愛ってめんどくさいからさ。見てんのはイイけど」


 そう告げればよく読み取れない表情を浮かべて「そう」とだけ答える。間違えた?

 答えを間違えた?


「僕も対人関係が苦手だからさ。おまえやあいつが付き合ってくれて助かってる」

「ん。お互いさまなんだから、気にすんなよ」


 間違えたわけではなさそうで安堵する。時々とても難しい。でも、そこも刺激的。


「言葉で伝えないと気持ちは伝わらないんだろう?」

「ああ」

「だから伝えたいんだ。そばにいてくれてありがとうな」


 わかってる。友達の好きでイイ。期待なんてしない。

 それでも、言い出したりしそうにない言葉を聞いてじわり涙がこぼれそうだ。


「あとさ。うん」


 ん?


「好きだ。……と思うんだ」


 とっておきのときめきと同じくらいムードクラッシャーな発言だろう。ああ。馬鹿野郎。


「……頭突きが返事か」


 息も絶え絶えな発言に余裕を感じる。腹に拳を埋める方が好みなのか!?

 嬉しい。テンパるくらいに嬉しいけどさ!


「思うんだってなんだよ!」


 オレの乙女心返せ!




お題は

1:「本」「なめるな」

2:「盲目」「守りたいこの笑顔」

3:「何故気付かない」「笑顔」

4:「似合わない」「光」

5:「とっておき」「涙」

https://shindanmaker.com/641712


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