不器用な夏
使用お題ひとつ
1
青春の一頁。
まだ夕暮れに時を余す青い夏空。
じんじんと揺れる空気。
髪をかき上げて生え際をつたう汗に気がつく。
校舎の外はじりつく熱射地獄。
サウナのような箱から意を決して僕は飛び出す。
「好きです」
「ああ、俺も」
下駄箱の裏から聞こえてきた青春の一頁。
僕は彼らがいなくなるのを待って飛び出した。見つかるわけにはいかない。僕はただの青春の一頁に残る必要のないシミになる。
ドッドッドッと勢いの良すぎる濁流のような音が自分の内側で暴れている。真っ白でダクダクでちかちかする。このまま意識を溶かしたい。
2
夜の闇の中小さな光の花が咲く。
赤い火花の可憐さに見惚れずにはいられないという表情の君に見惚れる。
たとえ、火が吹き消えないように風除けを命じられていても。
「告白したんだ」
知ってると返したい衝動を抑えて僕は頷く。
パーカー、ハーフパンツから伸びる足はしなやかで虫刺されひとつない。
きゅっと手持ち花火を握る手に力を入れて、ただただまっすぐにその先の花を見つめる君はまさに恋する乙女。最上に可愛い好きに惚れた相手を想うその表情。その想いは僕以外を向いているからこそ、僕に無防備に晒される。
それはきっと小さな幸せ。
不幸な辛さに近くとも君のことを知っていくのは幸せなんだ。
3
放課後の教室を舞台にしたワンシーン。
教室を染めるのは痛いほどの静寂と落ちてゆく夕陽の赤。映画のワンシーンを観ている錯覚をしなければ自分が惨めだと感じてる。
綺麗な夕陽。誰一人、僕以外の誰もいない教室。君の伸ばした手を握って引き寄せ、二人の影がひとつの影に変わる。寄り添いつつも視線の先が違うのか頭が揺らぐ。
それを教室から黙って見下ろしている。
君が笑えば幸せになれるのに。
どうしてこんなにも惨めで胸が痛むんだろう。
4
「告白すればよかったし、告白すればいいだろう?」
チョコレートアイスバーを咥えた友人が僕の悩みを笑い飛ばす。
それができれば苦労はないと苛立つ。
「告白してうまくいって付き合ってるって知ってるんだ」
告白なんて出来るはずがない。
それがどうしたと笑い飛ばす友人は僕の理解の外。
失恋前提で告白してお互いにキズを刻むのか?
「どうせ、失恋しているんだからはっきり引導渡してもらえよ」
イヤだよ!
声に出せない言葉が思考を支配する。
ああ。
僕は失恋しているってわかっているのに確定させたくないんだ。なにかあったら慰めてつけ込める立ち位置にいたいと考えている浅ましさを捨てられないんだ。
「どう切り抜けるとしてもおまえ次第だ。頑張れ」
ポンと叩かれる肩。
友達って、仲間っていいなぁ。
ソーダアイスが溶け垂れて指をベタつかせた。
5
「おまえ、あいつが好きなんだろ」
苛立った声と視線にビクリと体が萎縮する。君が好きと伝えた相手にどうして僕が絡まれる?
僕は君の幼なじみの立ち位置をキープ。恋愛対象外であり続けていたいと考えているのに。こんな修羅場は想定外だろう?
ああ。
どう答えるのが正解だろう。僕を睨みつける視線がこわい。
嘘でも、嫌いだなんて嘘はつけない。
「好きだよ。幼なじみだからね」
せいいっぱいの答えをできる限りの冷静さで。
君の彼氏が表情を和らげる。
「おまえに避けられてる気がするってアイツ心配してたからさ。それならいいんだよ」
その言葉にぐらりと頭が揺すられる。
「おまえら仲良いからな。俺としてはおまえともダチになりたいし……」
照れくさそうに言われてこいつを嫌えない状況が、その言葉が意外な会心の一撃で、つい崩れ落ちた。
心配そうに覗き込まれて、「よろしくな」とかなんか逃げられない。
「アイツの嫌いなもの教えてくれるか?」
避けたいからなと新しい友人。
ああ。
さすが、君が好きになった相手だよ。
修羅場にはならなくても、僕はあと何度、会心の一撃をくらうんだろうか?
お題は
1:「放課後」「青」
2:「光」「小さな幸せ」
3:「教室」「映画」
4:「仲間」「頑張れ」
5:「修羅場」「会心の一撃」
https://shindanmaker.com/641712




