からころと歩けば
使用お題ひとつ
からころと歩けば響く下駄の音。あの日の私は紅い空を見ていた。
忘れられない紅い空。
あの日がいつかは忘れてしまったのに。
金色の夕暮れと燃え盛る緋。立ち昇る黒煙。誰もが誰かを気にする余裕などなく逃げ惑っていた。
私はそれをただ見ていた。
誰かが私を見咎めることはなく、ただ通り過ぎてゆく。私はただ見ていた。
ときおり、にゃあと猫が私を見上げて鳴くけれど、周りの誰もが私に気がつかないの。
だから、私は存在していないんだと気がついたのよ。
私は存在しないナニモノでもない。意思があると感じることさえ錯覚で。
私の言葉を聞いてると感じてるあなたの錯覚。
違うとおっしゃるのなら、どうか、私が存在すると証明して下さい。
どうか、私が存在すると納得できるように。
見えぬものは存在しないのです。
だから誰かにとって、多くの誰かにとって私が見えないのなら、私は存在していないのです。
鮮やかな着物もべっ甲の櫛もぎやまん鈴のかんざしも私を彩るものは全て虚無。
だから、私がなにか言えないのなら、証明できないのなら、忘れなさい。
私と出会ったと思ったことこそがイツワリ。
あなたはあるべき人の世にありなさい。
からころとなる音は私の耳にだけ届く音。
証明できないあなたはあなたの世界におかえりなさい。
紅い空に巻き込まれる前に。
お題『私が存在すると、証明して下さい』or『場数を踏んだアナタに勝つ方法 』【冷静】
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