紅いリボン
使用お題ひとつ
夕方の歩道橋から見る風景は紅い夕焼けが添えられてるのがいい。
「シン」
カレンの声。振り返れば、弾むように階段をのぼってくる。
少しクセのある髪は暑いからという理由で二つの三つ編みにされている。後ろでクリップでまとめてあるからショートみたいだ。
シンプルな白いブラウスはボタンがふたつ外れていて、つい視線が泳ぐ。
車の走行量は少ない。
「バイト行くんでしょ?」
行こう。と照れくさそうに差し出された手を握る。
行きたいライブ。チケットや移動費を考えると所持金はゼロに近い。マコにカンパしてもらうにもそろそろ渋い顔をされそうだ。
「マユがダブルデートしようって〜」
「え。イッセイ付き合うって決めたの?」
びっくりだ。好意は持ってると思うけど、焦らして楽しんでるっぽいイッセイなのに。
カレンが笑ってる。ああ。みんなで遊びに行くならイッセイはつきあうだろうし。
「シンは、プロになるの?」
唐突なカレンの言葉はぞくりとくる。
「まさか。プロになれるのは一握りの才能のある人たちだよ。僕はいろいろ難しい。好きなだけだよ」
人生を賭けた時に嫌いになることが怖い。一歩が結局踏み出せない僕は臆病だ。好きでいられないことが怖くて好きに向き合えない。
「そっか。できないってシンが決めているならできないよね」
そう、なんだけど、ハッキリ言いすぎじゃね?
「無理で難しいとしか思えなくても、やれば意外にいけたりするよ」
目指そうよとばかりに笑われてちょっとたじろぐ。
「いくらでも失敗したらいいんだよ。今なら失敗したっていくらでも巻き返せるよね」
えへへーとカレンが笑う。
「それに、シンの歌うの私が好き」
ぎゅっと握られた指先の温度。夏の熱気に紛れて互いの体温がわからなくなる。いつかどこかで見たテレビドラマのワンシーンみたいにわざとらしい気もするけど、カレンの声が、言葉が、嬉しいんだ。
「なんだって出来るよ」
スカートが揺れる。
「僕は、カレンの髪ひっつめてない方が好きだな」
跳ねる癖っ毛を見ていたい。
「えー。扱い難くてめんどくさいんだよー」
すぐ絡まるんだから、って文句を言いつつもぱさりとおろしてくれる。
「あー、汗くさいかもしっとりしてるー」
後悔していると言わんばかりの声に吹き出す。「恥ずかしいじゃない」と告げるカレンの髪に触ってみる。逃げるふうだからすぐ止める。
「僕に触られるのいや?」
「汗だくっぽいからダメ」
「気にしないんだけど?」
「私が気にする!」
「コレ、恋人っぽいかな?」
ぴたんとカレンの足が止まる。
「恋人ごっこ?」
は?
「ただ、ふっとそう思っただけだよ?」
とりあえず、だけど恋人っぽいことができてるなら嬉しいから。
できる自信なかったからなぁ。
「あのね。シン」
「んー?」
「マユにね、おまじない教えてもらったの。成功したい理想をね、書いたリボンを歩道橋の目立たないとこに結ぶの」
「迷惑だろ、そんなこと流行ったら」
それはよくねぇだろ。マユにも注意しておけってイッセイに言っとくか。
「次の日にね、無事回収できたらそれをオマモリにするんだって!」
ひらりと揺れるリボン。結ぶ場所は綺麗にしてから結ぶのか、あまり汚れてはいなかった。
「未来に成功を縛りつけるんだよ。私、シンの歌好き。歌が好きなシンが好き。シンは成功するよー」
「呪い……」
「おまじない!」
階段をおりる。アスファルトは夕暮れでもじんわり熱気を帯びている。
カレンはそのリボンを束ねて財布にしまう。
「僕にくれるんじゃないんだ?」
「持ってるのは本人じゃなくたっていいの」
歩道橋を渡って少し歩けば、コンビニ袋を下げたイッセイとマユが手を振っている。
「行こう」
僕の腕を抱えて走り出すカレン。
うん。
嫌じゃない。
「夕方の歩道橋」で登場人物が「縛る」、「テレビ」という単語を使ったお話を考えて下さい。
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