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自縄遊戯  作者: とにあ
189/419

林檎

使用お題ひとつ

 鏡で見た自分の顔が赤くてものすごく恥ずかしかった。


「冷やしとけよー。ぶっさいくな林檎のままじゃつまんねーだろ」


 差し出されたのは山盛りフライドポテトの皿。

 食うだろ? って見られてムッとしてしまう。好きだけど、今は気分じゃない。


「ほら、柚ティーでよかったか?」


 差し出された柚ティーとアイスの皿。添えられた濡れタオルはキンキンに冷たい。


「僕もアイス欲しい」


「お前はメシ食ってからな」


 交わされる兄弟の会話。

 彼がいたから彼に出会えた。


「えー。アイスだけでいーよ。カロリーあるしさ」


 友人は最初私が兄の方の恋人だと思っていたらしい。

 学校でかまってきてたのは、一緒にいることが多かったのは兄の方だったから。

 運動神経良く、気配りも出来て外見だってカッコいい。

 二人が双子だと言っても間違える人はまずいないと思う。運動量とかの影響で筋肉量と日焼け度合いが違う。

 兄の方が陽射しの似合うアクティブさが際立つなら、彼は夜の月が似合う。気怠げな猫のように。

 ものぐさ。飽き性。ワガママで我慢は苦手。つきあう人間も人見知りする内弁慶。


「カレン」


 アイスを掬ったスプーンの先が消えた。

 うまうまとご満悦な『とりあえず』の恋人。

 兄に叱られてぶーたれつつも柚茶少しかけてもう一口と注文付きで笑われるとドキマギする。

 ズルい。


「ランチ食べれそう?」


 頷くと彼は部屋を出て行く。


「僕はカレンがマコのこと好きだって思ってたんだよね」


 アイスを口に放り込みながら彼が、シンが言う。ありえなさに笑っちゃう。マコに感謝はしても、大好きだと思いはしても、恋愛感情はカケラも無い。

 あたしは自分がかわいいなんて思えなかった。あたしは卑屈に事実を認めていた。無駄な努力はしなかった。

 変われたのはマコのおかげ。

 でも、動機のほとんどがシンに近づきたかったから。

 マコはあたしが私へと変われる手伝いをしてくれた。「女の子は女の子ってだけでかわいいし、いくらでも可愛くなれるんだ」なんて、本気で言ってるとは思えないこともマコは平気で言ってきた。

「本人がそれを放棄しない限りはね」

 流行りものが似合う気がしないと言えば、自分に似合う好きなものを選べと当たり前のことを言ってくる。体型も顔立ちも髪質だってそれぞれなんだから似合う似合わないは差が出て当たり前だろうって。「シンは埋もれちゃう子より光る子が好きだよ」って。


「好きだよ。マコのおかげでシンに近づけたし、でも、シンがウチに入れてくれたんだよ?」


「あ? ……ああ。ぶさいくに泣いてたから。あんま晒すのもさ。マコにセクハラされた疑いもあったしね」


 思ってもいないくせに。


「ぶっさいさえないフツーの泣き虫。マコといてどんどん可愛くなったしさ」


 シンが笑ってる。


「熟した林檎みたいだな。真っ赤だ」


 だって、シンが近い。


「なんで、僕?」


 だって理由なんて私にもわからない。


「好きだから」


「マコだって好きなのに?」


 あ。意外にしつこい。


「マコは好きだけど、マコは……」


 言っていいんだろうか?


「マコは、自信をくれたもん。でもね、でもね。私にとって恋愛感情を抱ける人じゃないの」


 マユと同じような女友だち枠っていうのが一番近い。マコだって私に恋愛感情はカケラも無い。敢えて言うならマコは……かわいいモノが好きなのだ。思わず、自作しちゃう勢いで。

 だから、マコにとって私は可愛く飾っていくお人形と何も変わらない。恋愛感情はカケラも無い。でも、マコにかわいいって言われるのは信じられる。本気で言ってくれてるって信じられる。


「どーゆー意味?」


 シンの声が少し尖ってる。知ってる。すごく家族を大事にしてるって。

 マコを否定してるわけじゃないんだ。


「だって、イッセイ君もだけど、付け入る隙がないし、なにより女子力が私より高すぎ!」


 お菓子作りも料理も恋愛相談も、ちょっとかわいい普段着アレンジまでこなすマコを恋愛対象男子とは私には見れない。それなら一緒にファンシーショップではしゃぐ女友だち枠としか考えられない。かわいいスイーツも好きだし、小物を見て目をキラキラさせてるのは姉やいとこ達の為って言うより純粋に好きなんだろうとしみじみ思う。あのへんだけ妙に素直じゃないんだよね。マコは。


「あー。なんか細々しいこと好きだしなー。世話好きだし」


「でしょ。それが好きだって子もいるだろうけど、私はちょっとね」


 必要とされたい。

 なにかしてあげたい。


「ま、僕は料理も裁縫も運動も得意じゃないかな」


 高校を卒業したらどこかに就職して好きに音楽に使える金を稼ぐと近未来を語る。にんまり笑って貢ぐちゃん歓迎って囁かれる。


「あんま泣くなよ。ぶさくなるからさ」


 プイって顔を逸らすけど、ちらちらこっちの様子は見てる。

 身勝手ワガママ気分屋で。

 たまに優しい部分が見えて『ああ。すきだなぁ』って再確認。


「なんか、会話がうまくできねー。つきあってる二人の会話ってなんだろう?」


 ガラス越しの陽射しにうっすら赤みがかる髪に差し込まれる長い指先。

 そんなことに困ってる。困るんだ。


「今まで通りでいいと思うよ」


 何が変わったわけじゃない。私が友達じゃない好きで好きなんだって伝えたくらい。変わらなくていいと思う。

 だって変わり過ぎたら対応していけないもの。

 シンが見せる姿に魅せられて頭がパンクしそう。

 特別に扱われてるって誤解しそうになる。


「なっ!? なんで泣くんだよっ! ぶさくなるって言ってやってるだろ!?」


「だって、シンが……」


「僕!?」


 かわいくてだなんて言えない。




「昼の部屋」で登場人物が「泣きじゃくる」、「林檎」という単語を使ったお話を考えて下さい。

#rendai

https://shindanmaker.com/28927

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