告白への返答
使用お題ひとつ
ガラス戸から射し込む光に薄目を開ければ、日が昇りはじめる早朝で動こうとすると軽い抵抗。いつの間にかかけられていたタオルケット。はずれたヘッドホンからもれる曲。聴きながら寝入ってしまったらしかった。
タオルケットを掛けてくれたのは誰だろう。母か兄か姉か?
候補者が多くて悩ましい。
体を起こして意外に軋む体を伸ばしていく。
床で寝るからだと叱られる未来の想像が容易い。
「ああ。起きたの。気をつけないと風邪をひくよ」
体調管理はしっかりとね。と笑う上の兄の姿に小さく感謝を告げる。
兄は僕の頭を撫でて、行ってきます。と仕事に出かけていく。
ぬくもっていく床に寝そべって手を軽く振ると笑い声が落ちてくる。
『好き』
伝えられたその言葉にどう返そうか悩む。
自分が対象だなんて思っていなかった。兄が好きなんだろうと見ていたのに。
「なにやってるんでしょうね」
降ってきた声は幼馴染みのモノ。出かけた兄に通してもらったと説明しつつ、僕の頭そばにしゃがみ込んでくる。
起きろと促しに来たらしい。
「体力づくりは暑くなる前がいいですよ」
起きて、起きて。と急かしてくる。
体力づくりだなんて誰が言い出したんだよ。面倒臭い。って、僕だ。
「明日から、とかはナシですよ。女子二人も一緒なんですからね」
好きなだけ歌うには、音楽に浸るには、好きなことをするには体力が必要だと確かに考えたんだ。
「だって」
「だって?」
うわ、聞き返すか? 察してそっとしておこうとか思わないか?
「気マズイ」
なに言ってんのコイツ。
幼馴染みのそんな表情が見てられなくてタオルケットで視界から幼馴染みを隠す。
だって、本当に考えたことなかったんだ。
初対面で酷いことも言ったし、邪険にしまくったし、気なんか使わなかった。
もっと、近ければすぐ何か言えたろう。
もっと、知らなければすぐ何か言えたろう。
なんで、こんな微妙な距離のクセに思いもよらない行動に出るんだろう。
「あっついんですよっ!」
ばさりという音と共に生温いタオルケットが視界を覆った。暑い。
なにを考えているんですかとネチネチ言われた。
だって、かぶったら暑いし。視線遮るにはお前にかぶせるしかないじゃん?
そんな説明をしたら自分でかぶってなさいと酷いことを言われた。
「だってさぁ。友達だと思ってたんだよ。友達としては『好き』だよ?」
でも、恋愛的な意味での『好き』は考えたことがない。
「おばさん以上の好意を寄せれる女子はいないって断言してたよね。おばさんを嫁にするって」
頷きながら小学生の頃の発言を持ち出す幼馴染みを睨んでおく。
母さんは理想なんだと思う。
どこが理想かと言えば、父さんを理解しようと向き合うスタイルなのか、外見なのか、歌声なのか、優しさなのか、仕草や反応がやたらかわいらしいとこか。あ。全部だ。
一番は無条件で好かれていることを信じられる。そんな相手。
父さんだって、そんな母さんだから大事にしてる。母さんに嫌われることが父さんにとって耐えがたい苦痛なんだと思う。息子を排除することも辞さない勢いで。熱愛馬鹿ップル夫婦め!
たぶん、それを理想のカップル像とかにしたら重いんだと思う。僕は彼女をそこまで思える自信がない。
きっと、自分が好きなことを優先して彼女をないがしろにする自信がある。
束縛されたらウザがる自分が想像できる。だから、困る。
気遣い少なめ友人関係を壊されて少し、イラついてる。
彼女に?
それは答えを出せない僕自身に。
「正直に今の気持ちを返せばいいんじゃないですか?」
「恋愛的な意味でみてなかったから困るって?」
そうそうと幼馴染みは頷く。
それって答えを先送りして宙ぶらりんになりかねなくないか?
「そしたら、僕を対象外にするかな?」
「……断る前提ならはっきり好きになれないと告げればいいと思うけど?」
だって、わからない。
でも。
「僕はさぁ。ワガママだから」
知ってる知ってると頷く幼馴染みむかつく。
「自分の好きなこと、したいことを優先すると思うんだ。はっきり言って誰かを優先したことないからな」
自慢することじゃないと笑われる。
でも、自慢だから。
好きなように好きなことをできる環境を優先的に作ってもらえてる。
自分の希望が叶えられることを知ってる。
『好き』には『好き』を返したい。
友達の『好き』以上の『好き』が困惑する。
だって、彼女の視線は兄を見ているって思ってたんだ。
兄だって、彼女のことには気をくばってた。
「そんなこと知ってるし!」
え?
「変わってなんて思ってない。つきあうには面倒臭いと思うけど、好きなんだから仕方ないじゃない!」
なんで、いんの?
悲鳴みたいにブチまけて顔が真っ赤で涙がボロボロこぼれてる。
「好きだから、好きって伝えただけじゃない!」
ああ。
真っ赤になってボロボロで、
「ぶっさいくだぞ」
「サイテー! サイテー! しかたないじゃん! それでも、それを知ってても好きなんだもん!」
「好きって考えたことないんだ」
「知ってる。聞こえてた」
いつからいたんだろ? 最初から?
「たぶん、優先することはできない」
「知ってる。好きにしてていいの」
「怒らないの?」
「怒るし、イラつくと思う」
え。
怒んのかよ。
「いつか、嫌いになれるかもしれない。今はムリなんだもん」
「ワガママなヤツ」
なんでかホッとする。
「どーせ、ぶっさいくなワガママですよーだ」
「嫌いになったら別れりゃいーか。お試しでつきあってみる?」
ぽかんとした顔が笑える。
「大丈夫。僕はぶっさいくなワガママでも嫌いじゃないし」
でも、目元はそろそろ冷やした方がいいかな?
「でも、そーゆー好きかとかよくわからないから、ダメならダメって言う。それでもいいか?」
ボロボロ泣くぶっさいくなワガママ娘をなだめてたから体力づくり一日目は破綻したと兄に説明しつつ、『とりあえず』つきあうことになった。と報告すると祝福された。
幼馴染みは一人準備運動して体力づくりしててズルいので、後で捕縛してくすぐりの刑にしようと思う。
いつの間にか逃げてたし、当然だよな。
「早朝の床の上」で登場人物が「言い訳する」、「音楽」という単語を使ったお話を考えて下さい。
#rendai
https://shindanmaker.com/28927




