ボールペン
使用お題ひとつ
ボールペンを手に取った。
しっとり手に馴染む。書き心地はどうだろう?
「それは書いたことが本当になるボールペンだよ」
にこにこと店主が笑っている。
ふっと目を落とした試し書き用の紙には『破滅を』という文字が小さく書かれている。
「現実の世界は壊れてしまった。これは人に与えられた機会なんだ。キミはなんて書く?」
にこにこと店主が笑っている。
世界がこわれた?
なんだかいきなり過ぎる。そうは思うのに急にボールペンが重量を増した気がする。
紙には破滅を望む言葉以外だって書かれてる。
相合傘に捩れた螺旋。立体的に装飾された愛って文字。
愛は破滅なんだとストンと落ちてくる。
好きが募って破れた時の絶望感は半端ない。
立てないほどに崩れてく。
とっくに私の世界は破滅の中。
「世界を再構築するのは愛ですよ」
世界を壊すのも愛なんだ。
世界を壊すのも救うのも愛ならば、破壊を破滅を望む私のこれは愛とは呼べない。
ふっと軽くなったボールペン。
『破綻』
書きつけるその言葉。
永遠の楽土なんかどこにもないと知っている。
人がいるから愛が生まれ。
人がいるから破滅を得て。
人がいるから世界は破綻する。
愛はある。
それでも、この愛は決して善なるものではありえない。
あってはいけない。
人の持つ愛があるがゆえに生まれる破壊は人災だ。
ああ。
ならば、私が世界に求め与えたい言葉は破綻なんだ。
文房具屋の店主が困ったように笑う。
そして、夢から覚めた。
私は、救世主にはなれない。
破綻と破壊をもたらす愛を抱いて壊れた世界で朝を迎える。
舞台:夢の中の文房具店
事件:人災
テーマ:愛だけが世界を再構成するなら世界を滅ぼすこれは愛ではない
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