カヤコ
使用お題ひとつ
木造校舎の教室のひとつ。
机に座った少女の腰まである黒髪が揺れている。
少女の表情はわからない。
白い狐の面に隠されてしまっているから。
「どうして逃がしたの?」
傾けられる頭に合わせて、さらさらと髪が揺れる。
その声は怒ってるようには聞こえない。
それなのにコーちゃんはぴったりと黙っている。
ヤシロちゃんはそんなコーちゃんを見てくすくすと笑ってる。
その笑いは楽しそうで聞いているとうっとりする。
「逃がしちゃダメなの。お約束したし、みんなも揃うのを待ってるわ」
そう。
だってね。
「みんなで肝だめしするんだよぉ」
コーちゃんがカヤコを見た。
なんだろう。
すごくいやな目でコーちゃんがカヤコを見てるよ?
どうして?
カヤコはみんなと楽しく肝だめししたいだけだよ?
「約束した奴じゃない奴も引き込んでか?」
コーちゃんの声は無理に絞り出したみたいにぎこちない。
え?
みんなお約束した子だよ?
コーちゃんはヤシロちゃんを睨んでる。
どうして?
「気がついてたの? 名前を呼ばれたから?」
ヤシロちゃんが笑う。
え?
カヤコ、わからないよ?
狐の面がカヤコを見てる。
「お約束した子たちよ。みぃんなね」
ヤシロちゃんの言葉にホッとする。
コーちゃんがヤシロちゃんになにか怒鳴った。
「コーちゃん、カヤコおっきい声きらい」
こわいよ。
「カヤコにうそをつくなよ」
コーちゃんがヤシロちゃんを睨んでる。コーちゃんがカヤコを見てない。
嘘?
ヤシロちゃんがカヤコに?
ヤシロちゃんとコーちゃんを見る。
二人とも嘘つき?
「カヤコに嘘なんてついてないわ。あなたたちと約束した子たちと私と約束した子たちしか招いてないの。ああ、こんなこと教えるつもりは、なかったんだけどな」
きゅっと指先が握られる。
ひやりとしたその手はヤシロちゃんだった。
「カヤコに、カヤコちゃんに嘘なんてついてないわ」
すぅっと疑ってざわざわしていた気持ちが落ち着いていく。
「私は、ずっとここにいるわ」
ヤシロちゃんが指を絡めてくる。
「あと、二人なの。そしたらお外でも遊べるわ」
ヤシロちゃんがそう笑う。
「あと、ふたり?」
コーちゃんの声。
それは震えていた。
ああ。お約束にきてないのはあと二人なのね。
「そうよ。コータ。あと二人で終わるの。大丈夫、もう逃がせないし、させないわ」
ヤシロちゃんの黒髪が揺れる。
「ヤシロちゃん?」
「私は、ずっとここにいるわ。カヤコは不安に思わなくても大丈夫」
カヤコのお面とヤシロちゃんのお面がかちりとぶつかる。
「うん。ひとりはいや。さびしいのはいや。だからみんなで遊ぶんだよね」
だから、みんなを呼んで楽しい時間を過ごすんだよね。
カヤコもさびしいのはひとりはいやなの。
「ダメだ! カヤコ、ダメだ! おれたちは一緒にいるだろ!」
コーちゃんが怒鳴ってる。
おっきい声はこわいよ?
コーちゃんが意地悪を言う。
どうして?
「お約束でしょ?」
「おれも、カヤコも、もう、なぁ、死んでるんだ。なぁ、なぁ、ヤシロ! おれはお前を知らない! お前は誰なんだよ!!」
ヤシロちゃんはヤシロちゃんだよ?
コーちゃん、なに言ってるの?
雨音がコーちゃんの声を掻き消していく。
「大丈夫。ちゃんとコーちゃんはカヤコちゃんを大事にしてくれるよ。私が怒っちゃったから、怒っちゃったんだよ」
ぺろりと舌でも出してそうなヤシロちゃんの声にカヤコもついクスリと笑っちゃう。
「カヤコ、あなたには、かなわないな」
ヤシロちゃんがそう呟いた。
あのね、コーちゃん、教室の外が黒いお水なのカヤコも知ってる。
集まってくれたみんながお水の中で寝てるのも知ってる。
あとね、ふたりなの。
そしたらカヤコのうつわを使って自由になれるの。
あとふたりあとふたり。
カヤコがコーちゃんを嫌えばあとひとりなのにね。
あとふたりあとふたり。
ああ、カヤコ。あなたには、かなわないな。
真っ黒な沼の底。
肝だめしに集まった子供たち。
怖いモノなんかないわ。
しがらみはすべて沼の中。
昇る煙と塩が逃がしたあの子。
逃がさない。
あとふたり。あとふたり。
「あなたには、かなわないな」「教えるつもりは、なかったんだけどな」「私は、ずっとここにいるわ」というセリフの入った話をRTされたら書いてください。
#setunaimode
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