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自縄遊戯  作者: とにあ
169/419

収穫祭

使用お題ひとつ

 

「ビオセも私と一緒に新年祭に出ればいいと思うんですよね」

 唐突に発せられた王子の言葉に僕は自分の服を見下ろした。

 小綺麗な制服。

 確かにめかしこんで王や皇太子による新年挨拶を拝聴しに来た人々に眉をひそめられることはないだろう。

 それでも新年祭の王城開放日に王子につくことは僕の護衛力からして無理だ。

 最終、未熟な護衛が側にいては王子も楽しめないだろう。

 実のところは気が引けたのだ。

「去年はですね、みなをまいていたら、とてもかわいい女の子に会ったんですよ。人は強いですね。あの子だってきっと、……いろいろ失ったんでしょうに」

 嬉しそう弾む声から一気に沈む声で発せられた王子の問題発言にとりまきである僕や同僚がぴきりと固まる。

「まくんじゃないってあれほど言ってんだろうが」

 年長の同僚が言えば、僕も続ける。

「どんなに無害に可愛らしく見えても警戒を解くべきではありません」

 王子は気にした風もなく笑う。

 嬉しげ楽しげなのはなによりだけど、警護も大事だから。

 自分達から喋ってはいけないというルールはこの時ばかりは無視される。

「すまなかったね。でも、護衛に囲まれていた方が要人だと思われてしまうと思うよ。同輩と共にいるように見える方がいいのではないかと思うんだよ」

 にこにことどうせなら一緒に楽しみたいし。と続ける王子は悪いと思っていないのがわかる笑顔で固まる僕らに対し、ほら、気にしない気にしないと言ってのける。

 気にしないワケがない。

 僕は同僚達と視線を交わしあい、ため息をこぼす。


 僕が僕のエディンに再会したのはその数ヶ月後だった。

 エディン。

 故郷から船でこの王都へ送り出された兄妹同然の年下の幼馴染み。僕とエディンはばらばらに引き取られた。

 同じ王都に住んでいるはずという状況だけが繋がりだった。

 酷い目にあってるんじゃないか、泣いているんじゃないかと心配だった。

 兵長と談笑しているエディンらしき姿に僕は固まる。

 ふわりとしたドレスと綺麗なリボン。

 大切にされているのがわかるお日様の笑顔。

「ビオセ!」

 胸元に感じた重み。甘い花の香り。無防備な笑顔。君の上に輝いた幸運の星に感謝した。

「エディン……」

「ビオセ、どうして泣いてるの?」

 君は無邪気に残酷だ。

 ほんのひととき。

 幸せそうなエディンとの時間。

 僕は強くなりたい。

 エディンを守れるように。この笑顔を守れるように。

 争いのない国を。


「なにボーっとしてんだよ。食わねぇんなら俺が食うぞ?」

 同僚の言葉にテーブルを眺める。

 テーブルには秋の収穫祭の料理が並んでいる。

 具沢山のスープを服に飛ばさないようにかきこみながら僕のビスケットに手が伸ばしていた。

 奴の手を払い落として取られないように自分のそばに寄せていると、奴はとれないことに悪態をこぼしてから雑談に移った。

「ちっ、食うのかよ。そう言えばさ、豊穣の女神杯と武神杯。見物も参加もできないのが残念だよなぁ」

 引き取られた孤児は兵舎の訓練区画から十五になるまでは外に出してもらえない。出れるのは不適合者か、才能を認められてどこかの養子に迎えられるかだ。

「それでさ、勇者様のお嬢様が両方出場して、第三位巫女の座と勝ち抜き三試合だってさー。機会があったら試合(しあ)ってみてぇよなぁ。内部だけで外部とやり合わないから自分の実力がわかんなくなるぜ」

 それでも、こいつはもう王都内巡視に呼び出されて時々外遊びしている。

「でもさぁ」

 肘をついてグラスを揺らしながら、奴は二ヘリと笑う。

「平和ってイイなぁ。街中で武芸者の辻試合はしょっちゅうだけどさ、収穫祭がにぎやかなのってよ、楽しいし嬉しいなぁ」

 そこは同感だけど、そのリンゴは僕の取り分だよね?

「ビオセ、タウゼン、私は来年、武神杯にでたいぞ!」

 休憩室で食事をとっていた僕とタウゼンは異口同音に答えを王子に返す。

「却下です」

「それなら出場権を俺にください」

 タウゼンがどさくさまぎれに要求を出す。

「警護者の戦力が把握されるのは困るのだから、僕らも出場は却下に決まってるだろう。タウ」

「それなりに強いって名前が売れるのも実力だと思うんだけどなぁ。女にもモテるし」

 そこかと思う。

 王子の前で不適切だろう。

「女の子だって出るんだよ」

 王子が食いさがる。

 年々収穫祭は賑やかになっていく。

 それは平和に復興してきた証だろう。

 王子が少しワガママを口にする姿は実は安堵をもたらす。

「今年は皇太子さまのご結婚式もあるんですからダメに決まってますよ」

 はぁと漏れる声はどこかげんなり。

「だから、最後の機会だと思うのに」

 そのあとはゆったりと笑みを浮かべて

 僕らの食事を見つめている。

 王家に生まれた子供はある一定の年齢になると儀式を受ける。

 王子はそれを「濡れた声を聴く」と表現した。

 液体のような怨嗟や呪いの音から国を守る結界を結ぶために。

「元々、聞こえていたんですよ。明確化した声に私が耐えられなかった場合は、どうか、君たちの手で私を幽閉してくださいね」

「おう。それでも収穫祭お忍びは却下だけどな」


お題は〔濡れた声〕です。

〔三人称視点禁止〕かつ〔食事描写必須〕で書いてみましょう。

https://shindanmaker.com/467090

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