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遠く近く
使用お題ひとつ
こんなにも、遠い。
それはその場にいたすべての人が抱いた思考だっただろう。
それほどの暴虐的な力だった。
戦場で高笑うは魔王と呼ばれた存在。
くすぶる業火に突き刺さる氷柱。
爆風がすべてを引き裂いていく。
こんなにも、遠い。
あの地獄。
生きることが遠かった。
ここは楽園でも地獄でもない人が生きる世界。
かつて笑って人々に絶望を振りまいた魔王は笑う。
幼い少女を慈しみ、楽しげに。
「カノッサ、強くなりたいの」
「よろしいですよ。お嬢様」
「おい、カノッサ、街で行方不明者が……」
少女の父が言葉を途切れさせる。
「殺めてはいませんよ」
少女の耳を覆って魔王は笑う。
こんなにも穏やかに暖かい。
魔王は神の断罪者。
こんなにも近くともどこまでも遠く。
どれほど遠くともこんなにも近くにある。
お題は〔こんなにも、遠い〕です。
〔一人称(私、僕等)の使用禁止〕かつ〔温度の描写必須〕で書いてみましょう。
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